武士のような彼の見解―真田side―
 

「ふははははは……!」
収集がつかないこの屋上。
足を踏み入れたのは織田(というらしい)の様子が一変してからだった。
「…仁王、これはどういうこと?」
精市が低い声で尋ねる。
「見たまんまじゃよ。最も織田があんなになっとるとは思わんかったがの」
楽しげに言う仁王に眉根を寄せたが、今はそちらを気にしている場合ではなかった。
そもそも何故俺達がこの場にいるのか。
それは10分程前に遡る。













「仁王、さっき赤也に何て言ってたんだ?戻って来ないんだけど」
「少し用事を頼んだだけじゃけえ」
精市と仁王の会話が聞こえ、俺は一旦練習していた手を休めた。
…そういえば先程から赤也を見ていなかったな。
「仁王、」
「…やれやれ、屋上じゃよ」
精市の呼び掛けに仁王が渋々口を開く。
「屋上、か。確か屋上に織田も上がって行ったようだが」
「! 織田さんも?」
蓮二の言葉に精市が過剰に反応した。
……知り合い、なのだろうか。
「何じゃ、幸村も織田のことを知っとったんか」
「まあクラスメートだからね。…で、仁王」
精市は仁王に笑いかけながら言葉を紡ぐ。
「織田さんと赤也はどんな関係なのかな?いや、何で二人が会ってるんだ?」
「…精市、その言い方だと付き合っているように聞こえるが」
蓮二の言葉を黙殺し、精市は仁王を見続ける。
「詳しいことは知らんよ、俺は頼まれただけナリ」
「へえ………」
仁王の言葉に精市は何処か不機嫌そうに呟いた。
「そんなに気になるなら見に行けばいいじゃろ」
「仁王、サボりはいかん!」
「真田は黙っときんしゃい。俺だってあの二人を一緒にいさせるんは心配なんでな、正直様子を見に行きたいんじゃ」
「それは、どういう意味でかな仁王」
「さあのう。俺の口からは言えん」
「仁王、お前が言っているのは……」
「参謀、それ以上は全てが終わった後じゃ」
蓮二は何か思い当たる節があったのか口を開くが、仁王に釘を刺されて口を閉ざす。
「…良いよ、行こうか」
精市の言葉に、この場にいた全員の視線…いや、レギュラー全員の視線が精市に向く。
「よっぽどのことみたいだからね。あの赤也が部活に出ないで屋上にいるなんて」
「しかし、幸村!練習は…」
「後で倍の練習をすればいい。そうじゃないのか、真田」
俺の咎める声に精市がそう返す。
……まあ、そうかもしれないが。
「さあ、早く行くよ」
「あー…俺も行っていいか?」
珍しくジャッカルがそう声を掛けた。
「ふふ、織田さんのことが心配なんだ?」
「そりゃ、あいつのダチだしな」
「俺も行っていいか幸村君!」
「丸井も織田さんと仲良かったんだ」
「お前さんも行くじゃろ、柳生」
「いえ、私は…」
…何故だ、全員が行くことになっていないか?
そう考えたが精市の言葉に逆らえる筈もなく、俺達は屋上へと来ていた。
「まだ話は終わっとらんようやの」
所々しか聞こえないが、赤也を咎めているような感じだ。
「仁王、これは一体…」
「静かにせえ。織田にばれるじゃろ」
俺の言葉に仁王が言う。
その言葉に従い、俺達はただ黙って屋上の様子を見つめ続ける。
「………様子が変わったな」
向こうから赤也の怒鳴り声と、織田の大声が聞こえる。
「中に入るよ、」
異変に精市は険しい顔つきでそう告げて、屋上へと続くドアを開けた。
「―――片腹痛いわ……!」
そう叫ぶ女生徒(多分織田だろう)と。
「赤也が、二人…?」
呆然とした顔で丸井が呟いた。
その言葉通り、目の前にいたのは二人の赤也。
そして、俺の視界の端で楽しげに笑っている仁王がやけに印象的だった。
『あ…先輩達…』
こちらを見て腕から血を流している赤也が気まずそうな顔をしている。
「赤也、か?」
蓮二が近寄りながら聞いた。
『…っス』
小さめに頷いた赤也に、蓮二は頭を下げた。
「すまなかったな、赤也」
『柳先輩…』
「……ああ、違和感はこれだったんだね」
精市が目を細めてもう一人の赤也を見た。
「うちの後輩の体から出て行ってもらえないかな?」
「………っ、」
「早くしろ、貴様の居場所に送ってくれる」
ギラリと目を光らせ、織田が言った。
『っ織田先輩!』
「……余をいつまで待たせる気だ?無礼なその働き、捨て置くのは赤也の為ぞ」
地面から黒い手が生えてくる。
『市先輩!』
「! あか、や…?」
『俺は平気っスよ、だから…』
「………そう、」
先程の雰囲気から一変して儚い雰囲気になる織田。
そして一歩、言葉を発しない赤也に近寄った。
「……貴女の魂は元あった場所に。市がしっかり送るから………」
手を差し出し、そう言った。
「…うん」
その手の上に自らの手を重ねた赤也はフッと意識を失った。
「織田、大丈夫か?」
「…仁王さん、どうして此処に?」
「訳あってじゃ」
さらり、とかわして仁王が言った。
「仁王が業と此処に全員を集めた確率78%」
ボソッと蓮二が呟いた言葉を無視して仁王は柳生の隣に並んだ。
「…赤也、」
『あ、はい何スか織田先輩』
織田に呼ばれて赤也が返事をする。
「準備はいい……?」
『はい、大丈夫っスよ!』
本当に嬉しそうに赤也は笑い、織田の横に立った。
「織田さん、君は一体何を…」
「幸村、こっから先は聞いてはいかんぜよ」
仁王に牽制されて、精市は若干不満気に頷いた。
「それで織田、何を手伝えばええ?」
「そのつもりで此処に来たのね…赤也を体に戻す作業のやり方は幾つかあるわ……」
「ちょっと待て、赤也を体に戻す、とか…何の話なんだ」
俺が止める様に声を掛けると織田は俺へと視線を向けた。
「……、――様?」
ザザッとノイズが走った様な音がして何と言ったのかは聞き取れなかった。
「………そのままの意味よ、赤也の体に今入っているのは…別の人…赤也、市が提案出来るのは誰かの体を通して入る方法か、無理矢理押し入れるか、くらい……」
淡々とした口調で言う織田に、仁王が面白そうにくつり、と笑う。
「要はキスで戻るか、他の方法かってことじゃな」
「キッ!? たたたたた、たるんどる!」
いきなり何を言うかと思えばき、キスだと!?
動揺している俺を見て笑みを深める仁王。
………後で覚えておけ!
報復を決めた俺を尻目に、話は進んで行く。
「赤也、どうするんかのう。キスは誰とでもええんか、織田」
「いえ…多分、市や仁王さんね…此処にいる人達の中だと……」
「……俺は男とキスする趣味はなかよ」
ビキ、と音を立てて固まった仁王。
少し良い気味だ、等と思いつつ何故二人なのか。
そんな疑問に捕われた。
「なあ、織田。何で仁王か織田がキスなんだ?」
恐る恐るといった感じに聞く丸井。
「……霊力、」
「は?」
「霊体のような赤也を戻すにはそれなりに〈道〉が必要なの……」
「道?って」
「霊体が通りやすいのは霊力…この中で霊力の類いを持っているのは、市と仁王さん………」
そこで織田の目が柳生へと移る。
「貴方、も恐らく霊力を持っているわ……」
「私、ですか?ですがそのようなものは見たことがありません」
戸惑い気味な柳生。
尤もだろう。
いきなりこのようなことを言われても訳が分からんからな。
……しかし、それと同時にどこか織田の言うことを嘘だとは思えない自分がいるのも確かだ。
冗談の類いをつかないような、そんな雰囲気を帯びているからだろうか。
『……あの、質問なんスけど』
沈黙の中、赤也が声を上げた。
『キス、って…何処にするんスか?何処でも良いなら額とか、頬っぺたとか』
「………口よ…」
『! い、嫌っスよ!口にキスされるとか…っ!柳生先輩はともかく仁王先輩には!』
「おいどういう意味じゃ赤也」
下手したらただじゃおかねえぞゴラ、といった雰囲気を出しながら仁王が赤也へと近付いた。



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