不器用な彼からの優しさ
 

市は日吉とストテニに来ていた。
「そういえば織田先輩は料理の中でも和食が得意なんですよね」
休憩している時に切原から聞きました、と日吉が言った。
「うん……」
「それって、お菓子なんかも出来るんですか?」
「多少は作れるわ……」
日吉の言葉に市は戸惑い気味に答えた。
「でしたら、今度作っていただけませんか?部活の先輩がお菓子お菓子煩いので」
「先輩思いなのね……」
「そういう訳じゃありません。部活に集中出来ないだけです」
日吉はふい、と顔を背けた。
「そう…それじゃあ何を作ればいい?」
市はそんな日吉に聞く。
「そうですね…あの人、甘いものが好きですから」
「甘いもの…葛切りとかでいい……?」
「ええ、ありがとうございます」

















「芥川先輩、これどうぞ」
「んー日吉が何かくれるなんて珍しいCー」
日吉が市とストテニに行ってから数日。
日吉は芥川に葛切りを渡した。
「本当だ、珍しいこともあるんだな」
向日がその言葉に反応して日吉を見た。
「別に…芥川先輩がお菓子お菓子煩いから持って来ただけです」
きっぱりと言い切り日吉はコートに出て行った。
「うっわー、マジマジすっげー!葛切りだCー!」
「葛切り?うわっ本当だ、つかこれ手作りじゃね?」
芥川の声に反応して向日が芥川の手元を覗き込んだ。
「ホンマや、これごっつ手ぇ込んどるなあ」
忍足も葛切りを見るとそう言った。
「手作りってひよっこが作ったのか!?」
「多分ちゃうと思うんやけど」
忍足のツッコミに向日が聞く。
「じゃあ誰が作ったんだよ?」
「アホ、知っとったら苦労せんわ」
「使えねえCー」
「え、ジロー?」
笑顔のまま吐き捨てるように言った芥川に部室の空気は固まった。
「アーン?お前ら何してんだ、早くコートに行って練習を始めろ」
調度入って来た跡部のおかげで固まっていた部室の空気は霧散した。






















「え、あの葛切りを作った人ですか?」
面倒なことを聞かれたと言わんばかりに嫌そうな顔をする日吉。
「別に誰だっていいでしょう。…そんなくだらないことが聞きたいだけならもう練習に戻りますから」
「日吉、そんな言い方先輩達に失礼だよ」
近くに丁度いた鳳が窘める。
「…すいません、先輩方。ですが、教える訳にはいかないので」
以前足フェチだと公言していた忍足を見ながら日吉は言った。
「…え、何で俺を見るんや」
「さあ、何ででしょうね(織田先輩に会わせたら何だか危ない気がするな…)」
「ちょ、今絶対何か思ったやろ」
「何言ってるんですか忍足さん。冗談はその趣味の悪い丸眼鏡だけにしてくださいよ」
「冗談やあらへんし、趣味も悪ないわ」
「…確かにゆーしの丸眼鏡って悪趣味だよな」
「岳人!?」
「そ、その…俺もそう思います」
「鳳もかいな…!」
忍足イジリにより意識を反らすことに成功した日吉はさっさと制服に着替えて外へと出ていく。
「あ、日吉!待ってよ、…それじゃあ宍戸さん先に失礼します」
「おう、気をつけて帰れよ」
「はい!」
ドリンクを飲んでいた宍戸が部室に残っている全員を見渡した。
「…にしても、激ダサだなお前ら」
当初の目的をすっかり忘れて忍足イジリをしている全員に呆れ返った声で呟いた。



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -