液体窒素で私を止めて
 

屋上で市は切原に口を開いた。
「赤也、……どうしよう」
『何が、スか?』
「…赤也の体に入ってる〈彼女〉から睨まれてるから……」
『はあ!?』
市の言葉に切原は驚いた。
何で織田先輩が睨まれてんだと思いながら切原は口を開く。
『でも、織田先輩が会ったのって屋上のときの一回だけっスよね』
「ええ……その筈よ」
『それだけで睨まれるって有り得るんスか?』
「さあ……」
『それに、織田先輩の名前だって知らない筈っスよ!』
切原はそう言って市に笑う。
「……早いうちに決着付けないと、大変そうね………」
『織田先輩?』
市の言葉に切原が不思議な顔をする。
「ううん、何でもないわ……」
『そう、スか?』
「うん……赤也。仁王さんのところに行って、放課後いつものところにって伝えてくれる……?」
『え、あ…はいっス!』
切原は頷いて、屋上から出て行った。
「………、貴方は誰?」
「俺に気付いていたのか」
スッと入り口付近からは死角になっている給水タンクの影から、糸目の男――柳蓮二が現れた。
「ええ…」
「興味深いな」
そんな市を面白そうに柳は見つめた。
「何が……?」
「俺に気付いていたこともそうだが、そこに赤也がいるかのように会話をしていただろう」
「………、空耳よ」
「ふっ…そういうことにしておこう」
柳は市の隣に来ると、そこに座った。
「確か、新学期が始まると同時に転入してきた織田市だったな」
「そうだけど……」
「隣のクラスの柳蓮二だ」
自己紹介をして、市を見る。
「……柳さん?」
「ああ、何だ」
「確認しただけ……」
市は屋上から去ろうとした。
「いや待て。少し聞きたいことがある」
「聞きたい、こと………?」
「大したことではない。俺の質問に簡潔に答えてくれればそれでいい」
柳の声に、市は少し考え込む。
「……、3つだけなら…」
「十分だ」
柳はノートを開き、シャープペンを手に取った。
























「ありがとう、おかげでいくつか分かったことがある」
「……、柳さんは何処まで知っているの………?」
「さあな、俺が知っていることだけだ」
市の言葉をサラっとかわして柳はノートを閉じた。
「お前の邪魔はしない。正直、あれについては俺も考えていたからな」
「………」
「ではまたな、…日吉濃」
「!」
練習試合のときの偽名を言われ、市は目を見開く。
その間に柳は屋上から出て行った。
「……、気付いてたのね」
屋上の扉を見つめながら市は呟いた。
『織田先輩!やっと仁王先輩に言ってこれたっスよ!……って織田先輩?』
「赤也、」
『さっきより疲れてないっスか?』
切原の言葉に市は目を瞬かせる。
「そうかしら……」
『そうっスよ、何かあったんスか?』
「……特にないわ」
切原に言い出せる訳もなく、市は言った。
「赤也、教室に戻りましょう…授業も始まるし……」
『、そっスね』
切原が頷き、教室へと二人は歩いた。



















「市、最近赤也…俺の後輩と何かあったか?」
「ううん…特に何もないわ……」
「だよな…お前がわざわざ関わりに行くとも思えないしな…」
「ジャッカル……?」
教室に戻ると、ジャッカルに質問をされた。
そんなジャッカルに市は不思議な顔をする。
「ああ…悪い、最近赤也がお前のことを聞いてくるから気になってな」
「切原さんが…?」
「ああ、お前と一緒にいたところを見られていたらしくてな…」
ジャッカルの言葉に切原が呟く。
『ばさら…が何か関係してんのか……?』
「、ジャッカル…絶対に市のことを教えたら駄目……」
「それは構わねえけど…」
嫌な予感がした市はジャッカルに釘を刺す。
「なら、良いの……」
カタン、と席に着き市は教科書を取り出す。
『織田先輩…』
切原の声に市は小さく頷いた。
















「仁王さん、少し頼みたいことがあるの……」
放課後、市は仁王と話をしていた。
「頼みたいこと?何じゃ」
「テニス部の人達を屋上に来れないように足止めして欲しくて……」
「足止め、ねえ……いつやればええんか?」
仁王はけだるげに聞く。
「…3日後、くらい……」
「3日後?また偉い急じゃな」
「急がないと、いけないから……」
「ほう、まあええよ」
市の言葉に面白そうに頷き、仁王は立ち去った。
「…赤也、もうすぐ元通りだから………」
『そう、スね…』
切原へと市は語りかける。
「後3日でケリを着けましょうね……」
『はい!』
嬉しそうな顔をして頷く切原に、市は笑った。



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