間違った靴のまま 外に飛び出した
 

「あ、……」
「こんにちは、市ちゃん!」
「橘さん…?」
「杏で良いって」
「杏ちゃん」
「そうそう!」
ニッコリと笑った杏に釣られるように市は笑った。
現在地、東京のストテニ。
休日を利用して一日中テニスをしようと切原と共に市はストテニへとやってきた。
こちらに来てから憑依で切原に代わろうと思っていた市だったが、流石に知り合いに会ってしまったら代われない。
仕方ないので午前は市がテニスをすることにした。
「サーブの仕方は…」
と、隣で教えてくれる杏の言うことを聞き一旦素振り中。
切原もアドバイスをしている。
『あ、もう少し膝を曲げた方が良いっスよ!』
「…そんな感じかな、基礎は出来てるから大丈夫みたい」
前にやったことないんだよね?と驚いた顔で聞かれるが、市はやった覚えがないからそれに頷く。
…心辺りはあるが、この場では確かめることも出来ない。
「杏ちゃん、次は…?」
「コートが開いたら使わせてもらって、試合してみましょう」
「うん」
頷きコートで行われている試合を二人で眺める。
切原は少し周りを見てくるとこの場にいない。
「凄い……」
「そうね、なかなか鋭い球を打ってるし」
「あれ、杏ちゃん?」
「あ、神尾君と伊武君」
後ろから声を掛けられて、杏が振り向いた。
「市ちゃん、紹介するね。二人は不動峰中のテニス部なの。神尾アキラ君と伊武深司君」
「初めまして、神尾アキラだ。よろしくな」
「ホントツイてないな……何が悲しくてこんな根暗そうなやつと話してんだろ………大体打ちに来たのにコートも空いてないしさあ…ツイてないよな……」
「深司、失礼だっての」
「……すんまそん」
「気にしないでね市ちゃん。伊武君、悪気はないから」
「うん……」
杏にフォローされて、市は頷いた。
「それでこの子は織田市ちゃん。立海の二年生なの」
「年上だったんですか、」
少し驚いたような顔で神尾が言った。
「うん…でも、敬語はいらない……」
コートが空いたのに気付き、市はコートを指差す。
「空いたみたい……」
「あ、ホントだ。二人も一緒に打とうよ」
「え、良いの杏ちゃん」
「良いの良いの!ミクスドで良いよね、市ちゃん」
「ミクスド、って?」
「ごめんね、分からないよね…ミクスドって言うのは男女混合ダブルスのことなんだ」
説明してくれている杏の後ろで伊武はボソボソとぼやいた。
「なんだよ…あの織田とかいつやつルール知らないのかよ……大体さあ、何で会ったばっかのやつと組むかもしれないんだよ…そもそもこのストテニに来なければこんなことになってないしさ…ツイてないよな……」
「深司、言い過ぎだぞ」
「すんまそん」
謝った伊武。
その雰囲気を払拭しようと杏が声を掛けた。
「それじゃあじゃんけんで分かれようよ」
「そ、そうだね杏ちゃん」
神尾がそれに乗ろうと便乗した。
じゃんけんの結果。
「「………」」
「「…………」」
杏・神尾ペア、市・伊武ペアに分かれた。
「そ、それじゃあ早速始めましょう」
更にズーンと沈んだ雰囲気に声を掛ける杏。
その声をきっかけに試合は始まった。
「足引っ張るなよ………」
「はい…」



















「あんた、なかなかやるね………」
「ありがとう…」
試合が終わり、伊武は市に言った。
「まさか負けちゃうなんて…」
「深司に合わせて動いてくるなんて思わなかったぜ…」
接戦の末試合に勝ったのは市・伊武ペアだった。
「また試合したいね、」
「うん…でも今日はもう行かないと」
「そうなの?」
「午後は予定が入ってるから…」
「そうなんだ…」
残念そうに言った杏も片付けを始める。
「私も今日は午後から桃城君に会うから帰ろうかな」
「えっ、杏ちゃんあいつと会うの!?」
「そうよ、良かったら神尾君も行く?」
「行くよ、杏ちゃん」
そんな会話をしている二人を尻目に伊武は市に話し掛けた。
「ねえ、携帯の連絡先ちょうだいよ」
「………え?」
「面白いからさ…またテニスするときに誘うよ」
連絡先を交換すると、神尾も交換しようと言って市と連絡先を交換した。
「それじゃあお先に、市ちゃん!」
「またテニス一緒にしようぜ」
「今度は試合しようよ………」
3人はストテニから去って行った。
「………切原さん」
『何スか、織田先輩』
いつの間にか戻ってきていた切原に話し掛ける市。
「代わるから試合してきて良いよ…」
『マジですか、織田先輩!』
「うん……」
『へへっ、久々にラケットが握れるっスよ』
着替えをする為に移動して男物のウェアに着替え、市は切原と交代した。
「へー…視線の高さとかは変わらないんスね、」
『そうね…切原さんの体をベースにしているから見た目以外は切原さんの体と同じ筈……』
シューズを履き変えながら切原は周りを見た。
「お、おーいそこのやつ」
近くで壁打ちをしていた見覚えのあるやつに話し掛けた切原。
「、……何だ」
「良かったらラリーしねえ?」
振り向いた目付きの悪い男は暫く考え込んで、頷いた。
「俺は日吉若だ」
「日吉ね、俺は…」
『織田紅(こう)』
「織田紅っつーんだ」
咄嗟に偽名を使い、日吉とラリーをし始めた切原。
暫く打ったあと、休憩を取る為に日吉と切原は自動販売機のところに向かった。
「お前、同い年だよな?」
「見た感じそうだな」
「それだけ上手いのに見たことがない」
スポーツドリンクを片手に日吉が聞いた。
「………ま、部活には入ってないしな」
肩を竦めて切原はごまかした。
「んじゃあちゃっちゃか飲んで練習しようぜ」
「ああ」
飲み終わったあとも暫くラリーをしていたが、暗くなってきた為解散になった。
「今日はありがとな」
「いや、こっちも壁打ちするより有意義に過ごせたからな」
そんな会話をしながら分かれて、着替えに向かった切原と市。
入れ代わり、これから着替えようとしたときに日吉が戻って来た。
「お、いたな織、田………」
二人は互いの姿を見ながら固まった。
「…………織田、だよな?」
「………」
『ど、どうするんスか織田先輩?』
どうしようと言われても困る、と市は思った。
「それとも他人の空似か?」
近付き、日吉は市を眺めた。
「…………」
「…いや、本人か」
「どうしてそう思うの………?」
「勘だ」
きっぱり言い切った日吉は少し視線をずらした。
丁度切原が立っている場所に。
「そこにいるみたいだしな」
『え、俺のこと見えて……っ』
「気配くらいしか感じないがな」
「日吉さん、貴方は…」
やれやれ、といった感じの日吉に市は話し掛ける。
「武道を嗜んでいるの?」
「! よく分かったな…」
「自然体の構えが凛としていて、身に纏う雰囲気が常に張り詰めているから……」
市も武道の嗜みがある故に気付いたことだった。
「それに、武道を嗜んでいる人はそういった気配に敏感になる………」
「へえ、てことはお前も武道を…」
「双頭薙刀を少し…」
そう告げて、市はラケットバックを手に取る。
「場所を変えましょう…?此処では話がし辛いから……」
「ああ、」
頷き日吉は市に着いて行った。
















「此処は…」
「市のお気に入りの場所…誰も来ないから、」
暫く歩くといつの間に入ったのか森だった。
そこから更に奥へと入った場所にその場所はあった。
夕闇の中咲き乱れる彼岸花。
季節外れの筈なのに、そこだけは別世界のように幻想的な空気が漂っていた。
「不思議な場所だな」
「そう…」
そこにある岩に二人は腰掛けた。
「まずは自己紹介からね…織田市。立海大附属高校2年生よ…」
「年上だったんですね…氷帝学園高等部1年生、日吉若です」
年上だと分かった日吉は口調を改めた。
「それで、さっきのは一体…」
「そうね…まずは何から話そうかしら……」
頬に手をあて、市は考えを纏めた。
「とりあえず、織田紅について見てもらうわ……」



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