優しい色で僕らを包んで
 

「それで、どうすればええ?」
「切原さんの居場所を取り戻す為に、〈彼女〉を追い詰めなくちゃいけないの………」
一時間目のチャイムがなる中、二人と一人は今までの事の整理とどうやって切原を体に戻すか相談していた。
「追い詰めるったって、体に怪我なんかはさせられんぜよ」
「そうね…可能性の一つなだけだし、怪我がさせられないのは分かってる……。1番は精神的に追い詰めることだから…」
「精神的に、のう……」
頷きながら仁王は考える。
「じゃが、あれのことをまだ赤也だと思うとってるテニス部がそれを見過ごす訳がなか」
「そうね…でも、やるしかないから」
「それに追い詰めたとして、そっからどうするんじゃ」
人間じゃどうしようもないと暗に告げる仁王に、市はこともなげに言った。
「切原さんの中から引きずり出す……」
「引きずり出す、って…どないするナリ」
ジッと市を見つめ、仁王は呟いた。
「……見る?」
「見れるもんなんか?」
「…切原さんを見えるようにする、」
ふらりと立ち上がり、市は目を閉じた。
「……………」
「…、何をするんじゃ?」
「…………………」
ズブッ……ズルズル。
足元から何かがはい出て来る音がしてそちらに目を向ける仁王。
「………っ!?何じゃ、これは…」
屋上の床から無数の黒い手が生えていた。
「これは、市に力を貸してくれてる人達……」
「人なんか、これ!?」
キャラが崩れているのを忘れて仁王が指差して叫ぶ。
「…切原さんに実体を与えるの、手伝って」
まるで指揮を取るかのように腕を振る市に従うようにうごめく黒い手。
何かに群がるように、動くとその場に切原の姿が現れた。
『ちょ…何なんスか!?怖いっスよ!』
「赤也…」
いつも通りの切原にホッとした顔で近寄る仁王。
『あ、仁王先輩……』
「すまんかったの、すぐに気付いてやれんくて」
目の前に立ち、謝る仁王に慌てる切原。
『気にしてないっスから!』
「…、ピヨ」
暫く話したいだろうと端に行き、下を見つめる市。
「あ、授業…出なかったわ…」
そっと携帯を取り出せばジャッカルから具合を聞くメールが来ているのに少々驚き、少し休んで行くと返事を返す。
「2限目が始まる前に戻らなくちゃ…」
時計を確認しながら市は呟いた。
「すまんのう、織田」
話しが終わったのか、二人がこちらに近寄る。
「終わったの……?」
「おかげさんでな」
『織田先輩、ありがとうございました!』
「ううん……」
「しかし、おまんにこんな能力があったとはの」
「生まれつき、あったみたい…人の魂が見えたり、操ったり…」
「そーけ」
『てことは幽霊に会うのも日常茶飯事っスか?』
「そうね…市に憑いているのもいるから」
『…取り憑かれてるんスか?』
若干引き気味に切原が言った。
「戦国時代の兵士さんなんかが特に……」
『怖いこと言わないでくださいっ』
「しっかし、織田は魔王かなんかかのう」
その場の雰囲気を和ませようと口を挟んだ仁王。
「………昔、第五天魔王って呼ばれてたわ…」
「『…………』」
気まずい雰囲気が流れた。
『そ、そういえばもうすぐ1限目終わりっスね』
「お、ホントじゃ」
「そろそろ戻りましょう…?」













「ただいま、ジャッカル…」
「おう、もう大丈夫か?」
「うん…」
教室に戻ると丁度1限目が終わったところだった。
先程別れた仁王とは連絡先を交換しておいたので、いざという時に連絡出来る。
勿論切原も既に実体化を解除済みで、隣でフヨフヨと浮いている。
「ほら、1時限目のノートは取っといたぜ」
「ありがとう…すぐに帰すね」
「いや、次の授業まででいいからな」
爽やかな笑みを見せるジャッカルに礼を言った市は授業の準備を始めた。
相変わらずマイペースである。
そんな二人のやり取りに和やかな顔をしてクラスメートが騒ぐ。
もうすっかりこの光景に見慣れて、むしろないと落ち着かないといった様子だ。
「そういや、さっきブン太が市の事を探してたぜ」
「ブン太さん?って……」
「ああ、丸井のことな」
聞いたことないといった雰囲気を出す市に苗字を言えば思い出したのか頷いた。
「あの赤い髪の人……」
「そう、そいつが昼休みに来るから待ってろだとよ」
昼休みは仁王と集まって今後を相談する予定だったのにと思い、考える。
「それって、すぐに終わる用事…?」
「え、あー…多分無理だな」
「どうして…?」
「昼メシ一緒に食うとか言い出すと思う」
申し訳なさそうに言うジャッカル。
市が丸井のことが苦手なのを分かっているのだろう。
「そう…分かった」
頷き、市はメールで仁王に昼休みは丸井がこちらに来ることを伝えた。
すぐに返事は返って来て、丸井に着いて行って合流すると書いてあった。


















「おっいたいた!」
「ブンちゃん早いナリよ」
昼休みになってすぐに二人は教室にやって来た。
「やぁっと捕まえたぜぃ…」
ここ一ヶ月程、市が避け続けていた為ろくに会話がなかったのが不満だったのか勝ち誇った顔で目の前に立った。
「つーか仁王、ブンちゃん言うなよ」
「ブンちゃんはブンちゃんじゃろ?」
「だーかーらー…はぁ、もういい。で、何で仁王も来たんだよぃ」
仁王の飄々とした態度に溜息をついて、丸井は気になっていたことを聞いた。
「まーくん一人は寂しいナリ」
「意味分かんねー…てか比呂士はどうしたよぃ」
「プピーナ」
「……………。んじゃ、織田屋上行こうぜ」
諦めたのか丸井が市に話し掛けた。
「え?」
既に弁当を開いて食べている市が不思議そうな顔をする。
因みに弁当の中身は五穀米と豆腐ハンバーグがメインのヘルシー食である。
「あーっ、何先に食ってんだよ!」
「だって、もう10分過ぎてたから……」
「あ、まーくんそれ欲しいナリ」
「じゃあ市はこれが良い…」
「交渉成立じゃな」
更に怒ろうとした丸井を遮り仁王が市の弁当に入っている豆腐ハンバーグが欲しいと交渉し始めた。
市は市で仁王からヨーグルトを貰っている。
「だーっ何でそんなフレンドリーなんだよ!」
俺なんか相手にされてねーのに!とジャッカルに八つ当たりする丸井。
「おいっ、止めろ!」
勿論ジャッカルも必死で逃げる。
「丸井さん、」
「ああ゙!?」
「はい…」
「え?あ、おう…」
イライラしながら振り向いた丸井にチロルチョコを渡した市。
「それあげるから…」
そう言って市はまた弁当を食べ始める。
「…サンキュっ!」
早速お礼を言って食べ始める丸井に仁王が鼻で笑った。
仁王の手には市から貰ったコアラのマーチがあった。
「(ブンちゃんは気づいとらんしええか、)」
すっかり機嫌が良くなった丸井を見て、単純だと思う仁王。
今日はあれ以上相談することも出来ないだろう。
「織田」
「なあに……」
「あれについてはお前に任せる、まあ色々裏工作なんかは任せんしゃい」
手に持っていたサンドイッチを食べ終えて仁王が立ち上がる。
「ブンちゃん、そろそろ鐘がなるぜよ」
「お、もうそんな時間かよ…じゃあまたな、織田。それからジャッカル」
「俺はおまけかよっ」



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