#03

泉李は欠伸をしながら、召喚器を見つめた。
「……これ、私が持ってても意味あるのかな」
「意味はあります」
「うわっ、ベスさん!?」
「はい、何でしょう」
「何時の間に隣に…!?」
「先程でございます。…さて、泉李様。今日にでも彼がいる場所に向かって欲しいのです」
「今日!?」
「ええ、今日です」
にこり、とエリザベスは笑みを浮かべる。
「別に今日封印から解き放って欲しい、とは頼みません。けれど2、3日中には助けたいのです」
「だからなるべく早い方がいいと?」
「…はい」
エリザベスの真剣な瞳に泉李は頷いた。
「うん、分かった。それに…下見くらいはしときたいしね」
「ありがとうございます」
エリザベスは深く頭を下げた。
「あ、でもさ。武器とかそういうの用意しないと危ないんじゃ…」
「その点は心配なさらず。こちらに来る前に調達して参りましたので」
ガチャ、とドアを開けるエリザベス。
そこには何やら細長い筒が置いてあった。
「…え、何これ」
「武器でございます」
「いや分かりますけども!」
真顔でエリザベスが言う。
それに泉李はツッコミを入れた。
「だ、だいだら.…?」
「はい、だいだら.にて調達しました」
4をやったことのある人なら御用達のお店、だいだら.…まさか最初からお世話になることになるなんて。
泉李は若干遠い目をした。
「で、ちなみに武器は…」
「棍でございます。それから防具代わりにこちらをどうぞ」
何時の間にか用意された服に泉李は眩暈がした。
「な、何でベルベットルーム仕様の青い服…?」
いやファンには堪らないけれど、と泉李は呟く。
「服のサイズは合っているのでご安心を」
「え、何処で調べたの…!?」
「昨日ですが」
さらりと言うと、早くと言わんばかりにエリザベスは目を光らせる。
此処で逆らってメギドラオンでございます、でも使われたら堪らない。
エリザベスは意外と世間知らずだったりするのでもしかすると普通にメギドラオンをしてくるのではないかと少しだけ警戒していたのだから。
だからこそ泉李は逆らわずに着替えることにした。
「よくお似合いです」
その淡々とした物言いに泉李は頬が何となく引き攣るのを感じた。
何故この服なのかなど色々と尋ねたいことはある、でも一番大事なことを聞かなければならなかった。
「…シャドウは」
「出ますね」
「デスヨネー」
エリザベスの即答にお手上げ侍だった。










「……タルタロスは無くなったんじゃなかったっけ?」
「ええ、二年程前に。今、目の前にあるのは…」
冷や汗を流しながら泉李が問う。
その横に立つエリザベスはそんな反応は予測していたのか差して何を言うでもなく、胸元に持つペルソナ全書を握り締めた。
「−−−タルタロスの残骸でございます」
二人が見上げる先には不気味な塔。
血が滴り、中の様子が剥き出しで見えている一部。
二年程前、〈彼等〉によって登られた場所、タルタロス。
崩壊したであろうこの場所は今もなお存在し続けていたのだ。
「…てか、え?登るの?これ…」
「ええ。以前下見に来たときには一階にある機能は全て壊れていましたので」
「あー…ワープ機能が使えるところまで自力で登ってくのね…」
泉李が納得したように声を洩らす。
何処かにちゃんと起動するワープ機能があると信じたい泉李はエリザベスを見た。
余裕そうな顔をしているが、体は少し強張っている。
やはり緊張しているのだろう。
「それに泉李様の戦闘経験にもなります。…今まで武器を持って戦ったことがないですし」
「手厳しい!」
泉李がそう声を上げるとエリザベスは不思議そうに首を傾げた。
「事実でございます」
「…うん、ソウデスネ」
溜息一つ、泉李は気合いを入れ直してタルタロスへと足を踏み入れた。
エントランスは所々亀裂が入り、美しかったであろうその場所は美しさが見えなくなっていた。
「うわあ…」
「中々に酷い有様でございますね」
本当にそう思っているのか分からない程、何時もの微笑を浮かべエリザベスはエントランスにある入り口を見た。
「…可笑しいですね、以前見に来たときは開いていたのですが」
「え、それって」
「タルタロスが私達が内部に入るのを拒んでいるのでしょう」
「そんな!じゃあどうやって…」
「大丈夫です。私にお任せください」
そう告げるとエリザベスは徐にペルソナ全書を開く。
その様子に泉李がまさか、と冷や汗を流して声を掛けようと口を開く。
「メギドラオンでございます」
激しい爆発音。
宣戦布告と言わんばかりに入り口を破壊した。
「さあ、進みましょう、泉李様」
「あ、うん…」
絶対にエリザベスを怒らせないようにしようと泉李は心の中で誓った。

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