#01

「初めまして、東京から引っ越して来ました。金代泉李です」
にこり、と人好きのする笑顔で泉李は笑った。
何でこんなことになったのか、それは数日前に遡る。










「よっしゃ!ペルソナ4オワタ!」
二周目が終わり、一息吐いた。
「やー、長かった…ゲーム苦手な私がよく頑張った…」
コントローラを投げ出し、ベッドに寝転がると泉李は写真立てを見た。
「国光君、元気かな…」
そのまま泉李は目を閉じた。
次の瞬間、目の前には青で統一されたシンプルな『部屋』があった。
「…え、」
泉李は固まった。
これに似た場所を見たことがある気がする。
それも、数時間ほど前に。
「ーーーようこそ、ベルベットルームへ」
気がつけば目の前には先程までやっていた、ペルソナ4の主人公とイゴール、マーガレットの姿。
泉李は混乱した。
(え、夢!?てかマーガレットさん美人すぐる…!)
そんなことを考えている内に気が付けば主人公の姿は見えない。
「あれ」
「さて、招かれざるお客人」
泉李が首を傾げるとイゴールが声を掛けてくる。
「珍しいこともありましたな。私も長年、契約を果たされたお客人を導いて参りましたが、このような件は初めてでございます」
「は、はあ…」
「もしかすると、これもまた運命やもしれません。もし貴女様が、契約を果たされ再びこのベルベットルームへと足を踏み入れなさったら。そのときに…」
イゴールの言葉はそこで途切れた。
泉李は泉李で、妙にリアルな夢を見るなとぼんやり考える。
やり込み過ぎたかと考えたところで、イゴールの声に引き戻された。
「…フフ、楽しみでいらっしゃいますな?ではお客人、貴女様が再びこのベルベットルームへ足を運び、合間見えるように願っております。…ではまた」
「え、ちょ、ま」
泉李の声も虚しく、徐々に薄れていく目の前。
そうして泉李は目を覚ました。
「…夢、か」
何故か安堵の溜息を洩らしてしまい、泉李は立ち上がった。
「って、あれ?私の部屋じゃ、ない?」
一瞬泉李は何が起きたのか分からなかった。
けれどどれだけ周りを見渡してもその場所は人の部屋であった。
荷物は自分のものであるとは分かる。
しかし部屋に違和感を覚えて仕方がなかった。
「……とりあえず起きよう」
そのままでいても仕方がないと泉李は部屋を出る。
どうやら一軒家のようだ。
広さはともかく部屋の配置は同じようなのでさほど気にせずに次々と部屋を見て回る。
そして最後に入ったリビングにあるダンボールに目を止めた。
「…何でダンボール?」
一度持ってみれば何かが入っているようで重い。
開けていいものなのか迷い、泉李はダンボールを一旦置いてきちんと確認した。
ダンボールの上には宅配便の紙が貼ってあり、受取人の欄には泉李の名前が書かれていた。
「……」
自分の名前が書かれていたのでとダンボールを開けると中には男子と女子の制服が入っていた。
「何で2つずつ?てか、これ、八十神高校のだよね?…あるぇ?」
首を捻る泉李。
けれどどれだけ考えても答えは出ない。
考えるのが苦手な方に入る泉李はすぐさま思考を停止してカーテンを開けて外を見ることにした。
「うわ、凄い霧…」
濃い霧が辺りを覆い、先が見えない。
この状況で外に出るのは自殺行為だと分かっているので泉李はカーテンを閉めてリビングにあったソファに腰掛けた。
(本当、どうなってるんだろう?制服はコスプレだったとしても…霧?あんなに濃い霧が町中で出るものなの?)
泉李はそこまで考えて、一番手っ取り早い手段を取った。
ーーテレビだ。
すぐさまテレビを付ければ、ファンならすぐに分かるあのCMが流れて来ていたのだ。
『ーエブリデイ・ヤングライフ!ジュネス!』
その声を聞いた瞬間に泉李は頭を抱えることになったのだった。
「う、わああ…これ、あれだよね?夢オチとかそんなオチであって欲しい!」
神様仏様幸村様ー!と叫ぶ泉李。
完璧に変人である。
「よーし、餅つけひっひっふー」
ぺったんぺったんろりぺったん!と叫びながら気持ちを落ち着ける泉李。
「貧乳はステータス!…ふう、賢者タイム」
一度落ち着いたところで泉李は再びダンボールを物色することにした。
中には学校関連のものがぎっしり詰まっていた。
「学校フラグですね分かります…っと、今日は何日だろ」
テレビを付けると丁度日にちが出ている。
3月の末のようだ。
「2011年の3月…原作直前!?」
泉李の頭の中で原作介入フラグの文字がちらつく。
「いやいやいやいやー…それはない、流石にない」
無理やり納得しようとして泉李は乾いた笑い声を響かせた。

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