#08

「私の名前は金代泉李。好きに呼んじゃってね」
「……有里湊」
鍋も終わり、一段落ついたところで泉李は湊と向かい合っていた。
「有里君ね、おけおけ把握」
そんな泉李をボンヤリと見つめる湊。
正直シュールだ。
「まず自己紹介も終わったことだし…とりあえず質問タイムってことで一つ」
「………」
頷かれ、泉李は考え込む。
(あ、やべ。私何から聞けばいいか分かんないや)
「…ご、ご趣味は…」
咄嗟に出てきた言葉はお見合いの常套句のような言葉だった。
「……睡眠」
「な、なるほどなー」
ヤバい会話続かない…!と内心叫びながらも泉李はこう切り出した。
「よし散歩だ散歩しようじゃまいか」
「……(何故散歩?)」
疑問を感じながらもどうでもいい精神を発揮した湊は頷いた。
何だか若干二人の思惑がズレながらも外へと出た。
「あ、此処は八十稲羽ね。長閑な…うん、長閑な町だよ」
これから起こるであろう出来事を思い出し果たして長閑な町と言っていいのか迷う泉李だったが、むしろ未来を知ってる方が可笑しいのでとりあえずそう言い、湊の腕を取った。
「私もさっき歩いたばっかで分からないけど散策しようず」
我が道を行くと定評の泉李、一狩りしようぜのノリだ。
「…どうでもいい」
「はい一どうでもいい頂きましたー」
実はもうどうにでもなーれ☆な感じな泉李のテンションは留まらない。
「まずは商店街ね!ほら、あれが本屋ね、いい感じにコアなファンがいる吸引力の変わらないただ一つの本屋」
「……割りとどうでもいい」
「…そ、その隣のだいだら.はアートの店ね。主に武器や防具、アクセサリーを売ってるよ」
「へえ…」
「それでポストがあって、丸久豆腐店があって、その次が……」
説明しながら歩く二人。
手を繋いでいるので目立っている。
「…詳しいね」
「!あ、いやえーと…さ、さささ、さっきね!じもてぃーの子に案内してもらったというか何と言うか…」
「どうでもいい」
「ですよねー」
眠そうに欠伸をする湊に苦笑しながら泉李は四六商店に足を向ける。
「…?」
「リボンシトロン飲もうリボンシトロン」
自販機にお金を入れて二つリボンシトロンを手に入れると泉李は手を離した。
「はい、どうぞ」
「……」
受け取った湊の顔を見て泉李は笑う。
(凄い嬉しそう…本人が気付いてるかは知らないけどね!)
P4アイキャッチ風に言えば伝達力言霊使いな泉李。
安定の信頼率で相手の顔色を読み取る。
「…ぷは、この一杯がたまらん…!」
「………」
おっさんのような態度で飲む泉李とひたすら無表情のままリボンシトロンを飲む湊。
「あ、ビフテキコロッケ二つー」
惣菜大学の奥さんに注文しながら泉李はにこやかに笑う。
「此処のビフテキコロッケ美味しいんだってさ」
値段もお手頃で学生のお財布にも優しいということでチラホラ同年代くらいの人がやってくる。
「あれ、誰?」
「もしかして、新しく出来た家の…」
ヒソヒソと小声でやり取りされる。
「…わ、ビフテキコロッケ揚げたてだよ。ほら、有里君」
そんな声に気が付かないフリをしてビフテキコロッケを手渡す。
「…ビフテキ?」
「ビフテキが中に入ってる!…といいな」
「何それ」
「!」
中身に興味が出た湊が口を開くと泉李がそれに答えた。
泉李の曖昧な答えに湊が口元を緩ませた。
「わ、笑ったあ!」
「え」
「有里君笑ってた方がいいって!」
「…そうかな」
「絶対そうだね!てか笑った顔が大好きです!」
「………」
変な人、と泉李に聞こえない程度に呟いた湊はビフテキコロッケに噛り付く。
「意外と硬い…」
「噛み切るの大変だね、これ…。いや美味しいけど、美味しいんだけどね」
なんとも言えない雰囲気が辺りを漂う。
「……あ、やほー巽君!」
ふと見知った顔を見つけて大声で叫ぶ泉李。
そんな泉李の声に慌てたように完二が走り寄ってきた。
「ちょ、んな大声で呼ばないでいーっスから!」
「はは、メンゴメンゴ」
「絶対謝る気零だろ…」
「……だれ?」
ポカンとした様子(見た感じでは分からないが)をした湊が首を傾げた。
「ああ?」
「あー、巽君」
「へえ。巽、君ね」
「や、ちげーから。君は名前じゃないんで。巽完二っス」
「巽か。有里湊」
「有里…えっと、先輩?」
「今は高2(二年前の段階だけどまあいっか)になるとこだよ巽君」
困惑気味の完二に泉李が適当に返した。
「…てか、巽君って呼びにくいな…『たっつん』と完二君、どっちで呼ばれたい?」
「何スかその二択…。だったら完二でお願いします」
「……」
「うんおけおけ。そうだ、今度家に来なよ。荷物持ってくれたお礼にご飯ご馳走したげるよ」
「自由っスね」
自分の言いたいことを好きなときに喋る泉李。
完二は若干引き気味だ。
「えー、あーっと…」
「ラス!」
「は?」
「…はっ、今何か乗り移った…!」
そんな泉李を尻目に湊が一言。
「どうでもいい」
その場の空気が凍った気がした。

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