うさねこ プレゼント
 

潮風の香る海沿いの道。
朝も早く、まだ少し靄が立ちこめる中を2つの影が歩く。
道路脇、護岸ブロックと道路を隔てるコンクリートの上を歩いていた小さな影は一つ伸びをすると東の方角をじっと見つめ、日の出、と呟いた。
つられてもう一つの、こちらは大きな影が応える。


「む、そうだな。随分と遅くなってきたものだ。」
「冬、近いから?」
「うむ。」


上端が見え始めた朝日を立ち止まって見つめる。
朝日が完全に姿を見せると小さい影…真琴が感嘆のため息を零した。
大きい影…真田はその様子に口の端を上げる。


「この季節が一番朝日を見れるのだ。夏ではほぼ起きる時間と同じ。冬は登校中やそれ以降だからな。見る暇が無い。」
「、綺麗。」


陽光を浴び、真琴は目を細めた。
何度も真田家に泊まったことはあるが、この季節に来ることはほとんど無い。
東京とはまた違う景色が、真琴には新鮮だった。


一通り日の出を見た二人は再び歩き始める。
微かに白に染まる息は確かに冬が近いことを告げていた。

ちらほらと人の姿が多くなり、真琴が不安からか手をウィンドブレーカーのポケットに入れた。
それに気付いた真田が自らの帽子を真琴に被せる。


「うわ、」
「む、大きいな。少し直すから下ろすぞ。」


真田は真琴をブロックから下ろし、後ろの留め具を調整して真琴の頭の大きさに合わせた。
前に回り、視界を狭め過ぎない程度に鍔を下げる。


「…ありがとうございます。」


鍔で視界の上方が遮られ、ほとんど大人と目が合わないことに気付いて真琴は真田を見上げた。
真田は安堵を雰囲気に滲ませる真琴の頭を撫で、手を引いて歩き出す。


釣りが日課のおじいちゃん、畑帰りのおばあちゃん、ジョギングをする少年と犬。
穏やかな景色の中彼らとすれ違い、挨拶と笑顔を交わす。
真琴は犬以外と目を合わせなかったが、彼らは真琴にも声をかけ、真琴が挨拶を返すと温かい笑顔を見せてくれた。

真田と繋いだままの手に、真琴はそっと力を入れる。
心が、とてもあたたかかった。



「真琴。」
「何ですか?」
「お祖父様が朝食を共にしたいとおっしゃっておるそうだ。急ぐぞ。」
「…はい、弦兄!」


顔を見合わせて走り出す。
流れていく景色は、どこまでも穏やかだった。



An overture to a sunrise



前へ 次へ

 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -