短編 | ナノ



俺が小春以外を好きになるなんて有り得ん。
その気持ちがたった今、崩された。
「大丈夫でしたか?」
目の前にいる、こいつによって。






初めてこいつを見たんは数ヶ月前やった。
「小春さん、こんにちは。今日も可愛らしいですね」
「あらあ、李紅ちゃん。嬉しいこと言ってくれるやないのー」
「事実ですから」
笑顔で話すそいつに、ムカついた。
「小春ぅ!浮気か、死なすど!」
「ユウ君。何言うてはるの、一番はユ・ウ・君や!」
「愛してんで小春ーっ!」
小春の笑顔にクラッときてもうた俺は小春に叫んだ。
「ふふっ、本当に仲が良いんですね」
「何や自分。俺の小春口説いて」
こいつ、気に食わん。
キッと睨みつけると、小春に落ち着いてと言われて仕方なく睨むのを止めた。
「初めまして、片岸李紅です。小春さんとは…」
「愛人の関係やで、ユウ君」
「!?」
な、何やて…!?
小春、めっちゃ浮気しとるやんか!
「小春さん、嘘はいけませんよ。彼、ショックで泣いてます」
「違うわ、李紅ちゃん。あれは嬉し泣きや」
「多分違いますよ」
そっからの記憶が俺には全くなかった。
気付いたら俺は家のベッドで寝とった。
無意識のうちに部活やって帰って来とったらしい。
帰りは小春が送ってくれた聞いて(謙也からメールが着た)、何で覚えてないんや自分!と責めた。















「怪我ありませんか、一氏君」
「あ、あらへんわ」
アカン、何かこいつ見とるとドキドキすんのやけど。
まさか一目惚れ!?……いやいや、流石にそれはないやろ。
だって今階段から落ちかけたところを支えられただけやで?
…そりゃまあ、仕草が洗練されとるっちゅーか…当たり前のように手を伸ばして助けてくれたけど。
「一氏君?」
「お、おおっ何や!?」
「立てますか?」
「おん、平気や」
有り得ん、絶対有り得ん。
こいつは俺から小春を奪おうとするやつや。
そんなやつをすっ、す…好きになったりなんかせんわアホ!
「それじゃあ僕はこれで。それから」
こいつは女…そう、あの喧しい女やで…って、こいつ今まで喧しかったことあったか?
「整った顔をしていますね。流石小春さんの彼氏さん」
「………!?」
え、今こいつ何て言いおった?
整った言われたんよな?
ヤバい、めっちゃ顔赤いんやけど!
ああああ、でもセーフや。
あいつはもう行ってもうたし!
「見てたで、ユウ君」
「こ、小春!?」
アカン、最悪や。
まさか小春に見られとるなんて!
「ちちちち違うで小春!俺には小春だけや!」
「ユウ君、それ浮気しとる男の台詞なんやけど…」
「!?」
ヤバい、さっきとは別の意味でヤバいわ!
小春に疑われとる。
「まあええわ。それよりユウ君」
ええんかい!
「李紅ちゃんのこと好きなんやろ?」
「ちゃ、ちゃうわアホ!俺には小春だけや!」
「んもう!隠さなくてええんよ。アタシ応援するし」
「え、」
「そうと決まったら李紅ちゃんとお昼一緒に食べるでユウ君!」
「ちょ、小春…?」
聞いとらん。
俺のこと考えてくれとるんは嬉しいけど、ちゃうて!
俺が好きなんは小春やから!
「さ、行くでユウ君。早う行かんと李紅ちゃんと食べられんよ!」


















「小春さんと食べるのは初めてですね」
「そうやね。李紅ちゃんと食べたくていっつも話し掛けようとしてるけど、出遅れてまうんよ」
どうしてこうなったんや…。
いつもなら小春といちゃつきながら飯食うのに。
こいつのせいで!
「一氏君、お邪魔してごめんなさい。迷惑だったでしょう?」

これや、ここできっぱり迷惑やって言えば…。
言えば……。
「別に構わんわ」
ホンマにどうなっとんねん!
断れや俺!
こいつの笑顔見たくらいで何言うとんねん!
「ユウ君ったら照れとるー、可愛いやろ?李紅ちゃん」
「本当ですね、可愛らしいです」
「可愛らしいとか言うなや、アホ!」
「ごめんなさい」
クスクスと笑うこいつ。
……アカン、調子狂う。
「一氏君、どうしましたか?」
「何でもあらへん」
「そうですか、なら良かったです」
…あれ、こいつ名前なんやっけ。
「早く食べないと昼休みが終わってしまいますね」
「あ、せやね。ユウ君も早う食べ」
「お、おう…」
今更言えんよな…名前聞きたいなんて。
しゃあない。
隙を見て小春に聞いて…。
「あ、すみません。僕ちょっと飲み物買って来ますね。二人とも何か欲しいものはありますか?」
「アタシはないで。ユウ君は?」
「俺もあらへん」
いきなりチャンスや!
飲み物を買いに行ったあいつを見送り、俺は小春にあいつの名前を聞いた。
「なあ小春」
「何やユウ君?」
「あいつの名前何やったっけ…」
「……ユウ君、それ本気で言ってるん?」
「、おん…」
小春めっちゃ怒っとる!
どないしよう…こんままやと嫌われる。
「まあ仕方ないわ。……片岸李紅ちゃんやで」
「!」
嫌われなかった…ホンマ良かった。
「今戻りました」
「お帰り、李紅ちゃーん」
「結構早かったな、……片岸」
「、ええ…」
「何やそんなに驚いて」
「一氏君に初めて名前を呼ばれたので」
嬉しかったんです、なんて笑う片岸……あれ?
またドキドキしてきてんけど…。
え、まさかこれホンマに惚れてる?
「こっ、こは…小春」
放課後、部活が終わって小春と二人の帰り道。
俺は小春に相談した。
「何やユウ君?」
「どないしよ、俺…」
片岸のこと、好きになってもうたみたいや。
「ユウ君、……頑張ってね」
「おん、絶対惚れさせたる!」



惚れたモン負けや!
(見とれ、絶対振り向かせたる…!)



―――
いつかシリーズ化したい話1です。

惚れたモン負けや!