短編 | ナノ



「好きです」
そう伝えたのはいつのことだっただろうか。
ボンヤリと考える。
彼が了承してくれ、私達は晴れて恋人になった、筈だ。
重荷になるのだけは嫌だった。
彼はテニス部の部長で、本土の人達に負けないよう努力していることを知っていて、私はせめて負担を与えないようにすることに必死に努めた。
休日はきちんと体を休めてもらいたくてデートすることもなく、部活がある日には早起きをしてお弁当や差し入れを作って渡したり。
…私のやっていることは重いと理解しながら、それぐらいしか彼にしてあげられることが思い浮かばず、私は躍起になっていた。
「永四郎、今日は寄り道しようと思ってるさー。永四郎も行く?」
「いえ、俺は…」
「木手君、私なら大丈夫だから行って来て?」
私のことを見ながら断ろうとする彼…木手君にそう言う。
「ですが貴女は家が遠いじゃありませんか。もう暗くなっているのですから、俺に送らせてください」
「に、にーふぇでーびる」
「いえ。貴女は俺の彼女なんです。彼女の心配くらいさせてください」
そう言ってくれた木手君。
私はとても嬉しかった。










今日は木手君の誕生日だ。
私はソワソワしながら木手君が来るのを待っていた。
暫くして木手君が片手に紙袋を持ちながらやって来た。
…女の子達からの誕生日プレゼントだ。
私は顔が強張るのを感じていた。
「どうかしましたか、李紅」
「え、あ、何でもない。…その、誕生日おめでとう」
「にーふぇでーびる、李紅」
そう言って木手君が私が渡したプレゼントを紙袋には入れずに手に持ってくれたのが嬉しかった。
「李紅、俺はもう一つプレゼントを貰いたいのですが…いいですか?」
「もう一つ?」
「ええ。俺のことを名前で呼んでもらいたい。貴女に呼んでもらいたいんです」
木手君の言葉に私は戸惑うと同時に私は嬉しく感じた。
今まで名前を呼びたかったけれど上手いきっかけが掴めずに呼べなかったからだ。
「え、永四郎君」
「上出来ですよ、李紅」
そんな永四郎君の声と共にふわりと温かいものが私を包む。
…私は永四郎君に抱き寄せられていた。
「あなたはもっと貪欲であるべきです、李紅」
甘い言葉で永四郎君が囁く。
私は幸せだと思いながら自らの腕を永四郎君の背中に回した。
「……私、もっと永四郎君と同じときを過ごして、キスしたりしたい」
「俺もですよ。やはり貴女は謙虚ですね」
永四郎君がクスリと笑う。
そして私の首にキスを一つ落とした。

あなたはもっと貪欲であるべきだ

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