短編 | ナノ



「皆、準備はいいかい?」
幸村君の声が掛かる。
今日はジャッカルの誕生日だ。
「分かっているとは思うけど、今日はジャッカルに対してはいつも通りに接すること。誕生日だなんて気付かないフリをする。誕生日の話題を振られそうになったらすぐに逃げる。……いいね?」
「イエッサー!」
全員で敬礼して、準備に取り掛かった。
「ジャッカルが来るまで残り12分といったところだな」
「げ、マジかよぃ」
「…そうしたらブン太、何かないとか聞いたりして頑張ってよ」
「…俺にどうしろって言うんだよ」
マネージャーの言葉に俺はぶっきらぼうに答えた。
……つーか、マネージャーはジャッカルの彼女なんだから行けばいいじゃねえか。
「私が行ったら確実に誕生日おめでとうって言っちゃうからね!」
「じゃあ丸井君が頑張るしかないですね」
他人事だと思って軽く返しやがって…!
そんな風に思いながら俺は部室を出る。
ジャッカルが向こうから歩いて来るのが見えて、ジャッカルに向かって早速お菓子を強請った。
「え、あ…ああ。ほらよ」
「サンキュ」
鞄を漁ってクッキーを出すジャッカルに軽く礼を言い、クッキーを頬張る。
「そういえばさっき幸村君が花壇に水やりに行けないから代わりに行って来て欲しいって言ってたぜ?」
「マジかよ。じゃあちょっと行って来るけどよ…荷物、部室に置いて来てからでいいか?」
「あ、俺一回部室に行くからついでに置いて来てやるぜ」
さりげなく鞄を奪い取り、花壇の方へと追いやる。
ジャッカルのことだから律義に花壇に向かって、ジョウロに水を溜めてから花壇が濡れてることに気付く筈。
そっから水を処分する為にそっから少し離れた花壇に水やりに行くだろうから完璧だろぃ。
一仕事終えた充実感にみをつつまれながら部室に戻るとどうやったのかこの短時間で飾り付けが大分出来ていた。
「すっげえ…早いな」
「王者たる者これくらい出来ないとね」
ふふ、と微笑む幸村君。
「精市、先程言っていたプレゼントだが…」
「ああ、うん。ちょっと待って、今行くから」
柳の声が聞こえ、幸村君がそっちに行った。
「……」
「ジャッカルどうだった?」
「あー…まあ、普通じゃね?」
マネージャーね声にそう答え、俺は近くにあった紙飾りを手に取る。
「そういやマネージャーは何か用意してんのかよ?」
「え、私?私はねー…私!」
「…さっむ!それは止めてやれよ」
いやいやいや、それはない。
いくら何でもベタ過ぎだろぃ。
先に言っておいた方がいいのか?
そういうのは場の空気が凍るから止めろって…!
「今すぐ何か買って来い」
「えええ…いいアイデアだと思うんだけどな…」
「もうマジで帰ってくれ」
ジャッカルには個人的にプレゼントを渡してくれ、頼むから。
「丸井先輩!ジャッカル先輩がもう戻って来るっスよ!」
「げ、もうかよ…!」
「あ、私足止めしてくる!」
「え?あ、ちょ…待てって!」
部室の外に飛び出して行ったマネージャー。
あー…あとで幸村君に絞められるな…うん。
案の定いちゃつき始めたしな。
…彼女欲しい。
「さて、大分飾りが出来上がった頃だと思うけど今日一日中は各自のロッカーで保管ね。はい、紙袋」
「…精市、何故メ○トの袋が混じって…」
「え?ああ…ほら、意外性?」
そんな会話をしながら飾り付けを隠してジャッカルとマネージャーを呼ぶ。
これで下準備は完璧だろぃ。
あとは一日中誕生日だって知らんぷりをして…。
………あれ、ジャッカルのやつ、気づいてねえ?
いやでもまさか…なあ?
流石に誕生日だぞ?
お金がないから祝えないから気づいてない、とかない、…ないよな?
やべえ、言い切れない辺りが切ねえ…!
とにかくこれはむしろチャンスだろぃ、利用しない手はないぜ。
「マネージャー、プレゼントは用意出来たんか?」
「え、うん!丸井君に駄目出しされたときはどうしようかと思って悩んだけど…ジャッカルの好みはグラマーな色白美人だからそんな感じの服を着た私をプレゼ…」
「マジで止めてやりんしゃい」
まだ自分をプレゼントfor you諦めてなかったのかよ…。
「皆さん、準備は出来ましたか?ジャッカル君がもう少しでやって来ますよ!」
「げ、もうっスか!?」
「予定より2分程早いな…」
「皆、位置に着いて!」
バタバタと皆でドアに向かってクラッカーを構え、柳が電気を消す。
「あれ、何だ?まだ誰も来てねえのか…?珍しいな」
そんな声と共に点く電気。
そして…。
「HAPPY BIRTHDAY!」
パンパン、とクラッカーの音が響く。
「誕生日おめでとう、ジャッカル」
「今日は盛大に祝ってやるぞ!」
「心ばかりのパーティだが、精一杯楽しんでくれ」
「おめでとうございます、ジャッカル君」
「ピヨ」
「おめでとうございます、ジャッカル先輩!」
「おめでとうジャッカル!天才的な俺のケーキ、心して食えよ?」
「おめでとう、ジャッカル!ジャッカルと一緒にいられて私幸せだよ!」
「お、お前ら…!サンキューな」
ジャッカルが目元を潤わせながら言う。
「まずはプレゼントからだね。俺からは…はい、これ。ニット帽」
幸村君がニット帽を差し出す。
「俺からはこれだな、マフラーと手袋だ」
真田がマフラーと手袋を渡す。
「俺からはこれだ、お香を用意させてもらった。香りは…焚いてからのお楽しみだな」
柳はお香。
「ジャッカル、この間このコーヒー豆を見とったじゃろう?」
仁王からはコーヒー豆。
「では私からはこれです。私がジャッカル君について綴った『心の紳士録〜黒き閃光〜』と以前気になっていたとお仰る本を差し上げます」
柳生からはポエムと本。
勿論俺はケーキだ。
マネージャーは…っと。
あ、普通にしてるぜい。
「ちぇ、渡すが何か気に食わない…!もっと勝負させて欲しい」
頑張れ、マネージャー。
「あ、あのねジャッカル君…私からのプレゼント!」
「こ、これは…!」
「私なりにジャッカル君を考えながら作ったんだ…」
「何それきもい!」
てか紙粘土で自作だな…。
また似てるのが腹立つ。
「ありがとうな、皆…!」
そう言ってジャッカルは笑いながら泣いた。

祝いの言葉は