短編 | ナノ
滝さんが誕生日だと聞いたのはつい数分前のことだった。 「…まあまあ、滝さんの誕生日知らなかったくらいで」 「……この間」 「うん?」 「この間の私の誕生日のとき、滝さんがプレゼントくれたんだよ」 私の言葉に友達は苦笑した。 「あー…まあ、滝さんマメそうだもんね」 「しかも、プレゼントもそうだけどお昼まで奢ってもらっちゃったんだよ!?」 「…それで付き合ってないことの方に私は驚きだけどね」 ボソリと友達が呟く言葉を聞かなかったフリをして私は項垂れた。 「本当にどうしよう…」 「もういっそのこと何か食べられるものでいいんじゃない?その方が無難でしょ」 無責任なことを言う友達。 でも確かにそれは一理、ある気がする。 食べられるもの…手作り、とか? あげられそうなのはやっぱりお菓子とか? でもお菓子って作るの、普通の料理より大変なんだよね…。 とか悶々考えながら、私は友達にそうすると答えていた。 「やっぱり基本はクッキーとか、かな」 放課後。 材料達を見ながら私はそう呟いた。 …あんまり私の料理の腕は良くないので簡単なものの方がいい。 のだが…滝さんのことだ、プレゼントの中にはクッキー…いや、むしろ高級食材で出来た料理なんかを貰うだろう。 ならばやはりきちんとしたものを、と考え私は近くの青果店にドライフルーツを買いに走った。 その際、勿論滝さんから渡されたあのダイヤのネックレスは忘れずに。 どういう訳かは未だに分からないが、このネックレスをしていると外に出る度に感じていた息苦しさを感じないのだ。 時折変なものを見てしまうときもあるが、それは疲れているからだろう。 そう決めつけ、私は良さそうなドライフルーツを見繕う。 「3680円になります」 「ありがとうございましたー」 そんな声を後ろに私は家へと急いで帰った。 レシピを見ながら作り、味付けも自分で確認する。 …うん、これなら。 失敗したクッキーの生地達を見て私はとりあえず焼いた。 自分で食べるようにする分なら平気だ。 ちょっと生地が緩いだけだし。 そうして焼き上がったクッキーの内比較的形が崩れていない、きれいに焼き上がったものを袋に詰めた。 残ったクッキーも小分けしていく。 あとで食べるときに便利だからだ。 「…さて」 「…李紅、馬鹿なの?」 「う、煩い」 「普通料理が苦手なのに手作りとかしないでしょう!?」 分かっている、分かってはいたけどそれしか思い浮かばなかったのだからしょうがない。 「…まあ、見た感じは平気そうだからいいけどさ」 マジマジとクッキーを見つめながら友達が言う。 「まあ、放課後に会えるんだしそのときに渡せばいいか」 「ええー…私一人?」 「うん」 何を今更、といった具合の友達。 …意外と薄情な、と思いつつ私は滝さんの教室へと足を運んだ。 既に教室からは滝さん以外の人はいなくなっていて、滝さんだけが席に座っている。 「あれ、今日は早いね」 私に気がついた滝さんは首を傾げながら席を立ち上がった。 「何かあったの?」 「…そうじゃないけど」 私の返答によく分からなさそうな顔をしつつも滝さんは私の目の前に来た。 「ならいいけど…。片岸さんは霊感がないんだから無茶しないでよ?」 心配そうな滝さんは私の付けているネックレスに軽く触れ、すぐに離れた。 「はい、お終い。もう帰っても平気だよ」 滝さんがそう言って微笑む。 「……ありがとう」 そう私が答え、私がどう切り出そうかと考えていると滝さんは不思議そうに私を見つめた。 「まだ何かあった?」 「…今日ってさ、滝さんの誕生日だよね?」 「え?ああ、うん。そうだけど…」 「これ、プレゼント」 私がクッキーの入った袋を差し出すと滝さんはその袋をジッと見つめた。 「…まさかプレゼントをくれるなんて思わなかったよ。ありがとう、片岸さん」 滝さんは微笑みながらクッキーを受け取ってくれた。 「開けてもいいかな?」 「…ど、うぞ」 滝さんの言葉に頷くと滝さんはクッキーの袋を開けて一つ摘まんで食べた。 「……うん美味しい。あんまり甘くないから食べやすいよ」 「そう、かな?」 「そうだよ。帰ったら食べるね」 なんてにこやかに言ってくれた滝さんは部活があるからと去って行った。 「…どうしよう。嬉しい、かも」 何だか顔がにやけてしまった。
不揃いなクッキー
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