短編 | ナノ



下駄箱を開けたら沢山のラッピングされたプレゼント達。
今日は俺の誕生日や。
「今年も大量じゃねえか侑士!」
「アホ、大体プレゼントが被ってんねん。逆に困るわ」
横から岳人が覗き込んで叫ぶもんだから色んな人達からの視線を貰いながら岳人の髪をグシャグシャと掻き回した。
「っわ、止めろよ!くそくそっ侑士!」
お陰で強烈な蹴りを貰ってもうた訳やけど。
「……あれ、これって何だよ?スーパーの袋のやつ」
俺が痛みに悶えとる間に岳人がプレゼントを漁り、不意に不思議そうな声でスーパーの袋を手に持った。
「これ、中に入ってんのって粕汁じゃね?しかも密封されたやつ」
「貸しいや!」
「ってえ!何すんだよ侑士!」
岳人の持っとった袋を慌てて奪い取り、俺は袋の中を覗いた。
中には俺の好物の粕汁が真空パックと密封容器に入っとって、汚れんようになっとった。
「これ、もしかして…」
「ん?何だよ侑士、誰からのか分かったのかよ」
あの子や。
俺の頭ん中で跡部の家におったメイドの子が無表情に佇んでいた。
この間跡部の家に行ったときに好物を聞かれて、俺は粕汁て答えた。
他のやつらも聞かれとったから特に期待もしとらんかったけど、これは正直嬉しい。
心に何かくるモンがある。
「………侑士きめえ」
そんな岳人の言葉も何のその。
俺は一日中(分かるやつには分かる程度やけど)にやけとった。
勿論部活の仲間にはばれたらしく、若干引いた目をされとったけど何も言われんかった。
けどあの子の名前を知らんのやけど…というより聞いても何だかんだはぐらかされる言うんが正しいんやけど、何故か名前を教えてくれへん。
まあ、メイドは私情を持ち込めん言うししゃあないわ。
そんなことを思いながら帰り支度をしとるとあの子の声がした。
「忍足様」
「、跡部んとこのメイドの…」
「……片岸李紅と申します」
「李紅ちゃんな」
俺が名前で呼ぶと、李紅ちゃんは強張った表情を見せてから口を開いた。
「……粕汁、のことなんですが」
「ああ、あれな。やっぱり李紅ちゃんからやったんか」
「食べて、いただけましたか?」
「おん、美味かったで?」
「………そうですか」
何だかホッとしたような感じに溜息を吐いた李紅ちゃんに俺は話し掛けた。
「なあ李紅ちゃん、ホンマおおきにな?最近はなかなか粕汁を食えんかったんや」
「いえ、…大したものでもなかったので」
いつもの無表情になり李紅ちゃんは立ち去ろうとした。
「あ、ちょお待ち。そこまで送ったるわ」
呼び止めると李紅ちゃんは頭を振った。
「……残念ですが自転車ですので遠慮しておきます」
「2ケツでもええやんか」
「何だ、普通に笑えるんじゃないですか」
にこり、と擬音が付きそうなくらいにこやかに笑うと李紅ちゃんはボソリと毒を吐いた。
「…李紅ちゃんが俺のことどないに思っとるんか、よう分かったわ」
俺が肩を竦めると李紅ちゃんは何を今更、といった具合に俺を見つめた。
「5分」
「……は?」
「ですから5分。待ちますから、早く帰り支度をしていただけますか?」
そう言って李紅ちゃんは笑うた。
「5分、やな。ちょお待っとき」
「………忍足様、案外分かりやすいのですね」
「俺様からすれば片岸、お前の方が分かりやすいと思うがな」
そないな会話を後ろに聞きながら、慌てて部室に荷物を取りに走り、俺はレギュラー達に怪訝な顔で見られた。
……ていうか、跡部いつからあの場におったんか?

好物は君の…