短編 | ナノ
「ふあほへふんのはんひょうひ?」 「こら、口に食べ物入れたまま喋らないの」 「……ん、ごめんお萩」 お萩に窘められて、私は一旦ご飯を飲み込むと箸を置いた。 「今日なんだよね?」 「おう!」 「私跡部君の誕生日知らなかったから何にも用意出来ないんだけど」 「そんなの関係ないCー!片岸ちゃんはおめでとうっていうだけでEーの!」 謎のジロ君の気迫に負けて私は頷いた。 「やったなジロー!」 「うん、跡部喜ぶね!」 キャッキャとはしゃぎながらジロ君とガックンは教室に戻って行った。 「……何だったの?」 「さあね。ほら、早くしないとお昼終わっちゃうよ」 お萩に言われて私は慌ててお弁当を食べ始めた。
「誕生日おめでとう」 ……本当にこれだけでよかったのだろうか。 目の前の跡部君は固まっている。 「…………やっぱりプレゼントを用意した方がよかった?」 「……っいや、そんなんじゃねえ!」 大きな声を出して跡部君が言った。 「まさか、お前が誕生日を知ってるなんて思わなくてな」 ふわり、といつもの不敵な笑みとは違った笑みを浮かべる跡部君。 ……ジロ君達が教えてくれたからとは言わない方がいいかもしれない。 「ありがとうな、片岸」 跡部君のお礼の言葉に柄にもなく私は照れてしまった。 「べ、別に単なる社交辞令なんだからね!」 何処のツンデレだと言いたくなるような私の言葉に跡部君は私の表情と合わせ見て、私の額にデコピンをした。 「表情と言ってることが合ってねえよ、片岸」 「あた、」 額を摩りながら私が跡部君を恨みがましく見つめると、跡部君は自信満々といった風に「来い」と言った。 「……へ?」 「来いよ、誕生日プレゼント代わりに少し付き合いやがれ」 跡部君の言葉に私は頷き跡部君に着いて行く。 私は黙々と歩き続け、跡部君は何処かに電話を掛けながら歩く。 「こっちだ」 不意に跡部君はそう言って私の腕を引っ張る。 気付けば学校の中から出ていて、知らない道を歩いている。 「ちょっと、跡部君」 「……着いたぜ」 足を止めて跡部君が景色を見るように促す。 「此処って…」 「ああ、氷帝が一望出来る場所だ。…放課後の部活に励む声や姿が一望出来るんだ」 かみ締めるように跡部君が言う。 「片岸、俺様はこの三年間を氷帝の為に過ごしてきた。俺様はその席を譲ることになる前にこの場所から氷帝を一望しておきたかった。……一人じゃ照れ臭いからお前を連れて、な」 跡部君の言葉を聞きながら私は氷帝の校舎を眺める。 跡部君も無言で暫くの間校舎を眺め、不意に身を翻した。 「片岸、行くぞ」 「……いいの?跡部君」 「ああ、満足だ。さっさと戻るぞ」 跡部君は一度として振り向かなかった。
氷の王様と平民
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