短編 | ナノ



私のご主人はとても努力家だ。
私はご主人が幼少の頃から共に生きてきたけれど、ご主人が何かしらの壁にぶつかり自分自身の力で打ち勝って来たのを知っている。
そんなご主人が私は誇りに思えて仕方がなかった。
「李紅、ただいまー」
テニスバック、と呼ばれるらしい鞄を床に置き私を呼ぶご主人に控え目にじゃれつく。
ご主人は毎日へとへとになって帰って来るのだ。
更に疲れさせてしまって翌日の学校なる場所に行くのを大変にしてしまっては本意ではない。
そう思い、私はあまりご主人にじゃれつかない。
……じゃれつかないのも駄目だ、一度疲れて帰ってきたご主人にじゃれつかずにいたら私に愛想を尽かされたのかとご主人が戸惑っていた。
ご主人に心労を掛けるのは愛犬として頂けない。
それ故負担を掛けないよう注意しながらじゃれつくのだ。
神経は使うけれど私からしてみればそんなものたやすいことだ。
それでご主人が安心出来るのならば。










今日は世間でいうところのご主人の誕生日だ。
部活の仲間に貰ったというプレゼントと可愛らしいラッピングに包まれたプレゼント達。
可愛らしいラッピングのものはご主人のファンなる者達からのプレゼントだろう。
……私は、何をすればいいのだろうか。
ご主人にじゃれつく?
否、これはいつものことだ。
もっと別の方法で何か…とは思うが私は犬、ご主人にあげられるものなど限られている。
せめて声が出せれば。
そうすれば祝いの言葉を贈れるのに。
私はご主人の横で小さく吠えた。
…やはりいつもと同じだった。
人に意思を伝えられる言葉は出なかった。
これから部活の仲間達とパーティーなのだと笑ったご主人の顔を舐める。
…私も、ご主人を祝いたいのだ。
だから少しでもいいから言葉を伝えたかった。
「じゃあ行ってくるな」
パタン、と閉められたドアを前に私は必死に言葉が出るようにと小さく吠えた。
周りが煩いと感じないように小さく、小さく。
そうして吠え続け、ご主人が帰って来る頃には私の声は小さくなっていた。
「ただいま、李紅!土産に骨付き肉、貰って来たぜ……李紅?」
不思議そうなご主人の声に私はじゃれついた。
「……わんっ!」
伝わればいい、私の言葉が。
──誕生日おめでとう、ご主人!私はご主人と一緒にいれて幸せです。


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宍戸さん誕生日おめでとうございます。
世にも珍しい?愛犬夢主。
凄い宍戸さんに懐いてそうだな、と思って書きました。

愛犬の言葉