短編 | ナノ
「跳んで…みそっ!」 いつもよりも調子がいい向日。 そんな向日にレギュラー陣は首を傾げた。 「岳人、どないしたん?何や今日調子ええやないの」 「…秘密!」 忍足が代表して声を掛けると向日は暫く考えたあとにそう答えてコートの中に逃げ込んだ。 「何なんだ?岳人のやつ……」 不思議そうに向日のいるコートを見ながら宍戸が言った。 「明日、向日先輩が誕生日なのと何か関係があるんでしょうか?」 コートの向かい側でボールを打っていた鳳がポツリと呟いた。
「っよっしゃあー!終わったぜ!」 9月12日、向日の誕生日。 授業が終わると同時に向日は教室から駆けて出た。 手にはしっかりとテニスバックと携帯。 持久力のない向日とは思えないくらいのスピードをキープしたまま校門を飛び出す。 「えー、と…これから駅に行く、っと」 カチカチと携帯でメールを送りながら人を避けて走る。 「よっ、お待たせ!…待った、よな?」 「ううん、あんまり待ってないから大丈夫」 にっこりと笑って李紅は言った。 「久しぶりだね、岳人」 数ヶ月ぶりの恋人との再会に、向日は李紅を抱きしめた。 「…っ、が…岳人?」 戸惑いの声を上げると向日は抱きしめたまま笑った。 「ほんっとーに久しぶりだな、李紅!」 「会えて嬉しいよ岳人」 「俺も!」 東京と千葉の遠距離ということもあり、なかなか会うことが出来ない二人。 向日の誕生日は直接会って祝いたいからと李紅が千葉から上京してきたのだ。 「大丈夫だったか?此処まで一人で来たんだよな?やっぱり俺がそっちに行けば…」 「ううん、岳人の誕生日なんだからこれくらい当たり前だよ。そもそも岳人は学校があったんだししょうがないよ」 一旦体を離して二人で笑い合う。 「とりあえず何処か入ろうぜ、立ったままでいるのも何だし」 「うん、そうだね」 近くの喫茶店に入り席に着き、飲み物を頼み向日は李紅を見つめた。 「どうかした?岳人」 「あ、いや…暫く会わなかったからか、李紅が凄く大人っぽくなった気がしてさ」 「本当?ありがとう。岳人は更に男らしくなったと思うよ。……背はちょっと低いけど」 「あ、それは言うなって!これでも伸びたんだからな!」 李紅のからかうような口ぶりに向日はムッとしたように反論した。 「くそくそっ。すぐに背なんか抜いてやるからな!」 クスクスと笑う李紅に向日は拗ねたようにそっぽを向いた。 「うん、楽しみにしてるね」 「あ、信用してないだろ!」 「そんなことないって。でも私、岳人は背が低くてもかっこいいって思うんだけどなあ…」 「……それで怒らせたのチャラにはならないからなっ」 そう言いながらも向日は少し照れたようにして笑った。 「プレゼントなんだけどね、よかったら使って」 はい、と手渡されたのはタオルと手作りの小さなケーキ。 「誕生日だからと思ってケーキにしたんだけど…甘いのって大丈夫だった?あまり甘くないのを作ったつもりなんだけど…」 はにかむように笑む李紅に向日は笑顔で頷いた。 「ありがとうな、李紅!最高な誕生日プレゼントだぜ!」
遠距離な向日
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