短編 | ナノ
「李紅!」 遠山君は変わった。 私にべったりくっつくようになった。 ……今の遠山君は危うい。 私は少しずつ、遠山君へのイジメがこちらに矛先が向くように仕向けていた。 悪質な嫌がらせは遠山君が朝練に出ているうちに片付けた。 遠山君の机を綺麗に拭いた。 置いてあった菊の花を主犯であろう人の机に置いた。 啖呵を切ってやった。 イジメに加担していた大半は、誰を虐めてもよかったのだろう。 事実、遠山君がテニス部レギュラーに選ばれたときキャーキャー騒いでいた女子もいたのだから。 長いものには巻かれろ、とはよくいったものだ。 自分の意思もなく、周りがやっているから大丈夫だ。 自分がやらなきゃ今度は自分がイジメられる。 だからこの負のループは続く。 遠山君はその負のループの中心に投げ込まれたようなものだ。 この明るさから言ってそういったイジメなんかと関わりがあったとは思えない。 純粋過ぎるのだ、あらゆる意味で。 だからこそこうやって疲れきって自分を傷付けようとしてしまったのだろうから。 遠山君の短くなった髪を見ながら私は思った。 この負のループはいつまで続くんだろう。
「こんにちは、財前先輩」 昼休みに会った遠山君の先輩。 私のことを睨むように無言で見つめた。 「お前…何考えとんのや」 財前先輩の言葉は主語がなかった。 なかったけど何が言いたいのかは察しがついた。 「何も」 私はお弁当を片手に笑った。 嘲笑うように、そして憐れむように。 「ただ強いて言うなら見て見ぬフリをする貴方達と同じになりたくなかったから、ですよ」 「…………」 押し黙る財前先輩の横を通り抜ける。 目指すは屋上、遠山君とのお昼ご飯が待っている。 「遠山君」 「…李紅!」 ぱあ、と顔を輝かせて私に抱き着く遠山君。 「ごめん、遅れた」 「何かあったん……?」 不安そうに瞳を揺らす遠山君に何もなかったとだけ告げてお弁当を開く。 さて、財前先輩はどうするのだろう。 遠山君を見捨てるのかそれとも。 どちらにしろ、私がすることは変わらないのだけど。
傍観者と、ゴンタクレ2
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