短編 | ナノ
「……なあ、仁王」 「んー、何じゃ」 仁王の部屋に俺がやっているゲームの音が響く。 仁王はそんな俺の天才的なゲーム捌きを見ようともせずに窓を開けてシャボン玉を吹いている。 「俺さ、フラれたんだ」 「へー」 「………それだけ?」 「それだけじゃ」 どうでも良さそうに仁王はシャボン玉を吹き続ける。 …俺、失恋宣言してんのに酷くね? 「ちゅうか、何で俺に言うんじゃ。まさか慰めて欲しいとかか?……ハッ」 今、鼻で笑いやがった。 ぜってえダチにする仕打ちじゃねえだろぃ。 「んな訳ねえだろぃ」 「じゃあ何でなんじゃ」 見透かすように俺を見てくる仁王。 「…何でだろーな」 「まあブンちゃんはあれじゃろ、良くてペット止まり」 「うっせ、殴んぞ」 「プリッ」 仁王はシャボン玉を吹くのを止めて俺を見た。 相変わらず訳分かんねえ。 「つーか仁王はどうなんだよ」 「俺は好きなやつおらんし」 「嘘だ」 「マジじゃって。ぶっちゃけると、今はテニスより大切なモンなかよ」 それもそうかもしれねえ。 俺だってテニスが一番大事なのに変わりねえし。 「……まあ、俺は彼女が出来んどっかの赤いガムに付き合って作らんがな」 「仁王…」 何だかんだ言って、良いやつなんだよな…仁王って。 俺からしてみたら、こういう優しさなんて分かんねえから何とも言えねえけど。 そもそも遠回し過ぎて分かんねえやつもいんじゃね? 真田とか赤也とか。 あー目に浮かぶな、うん。 「ま、しょうがねえから俺もお前に付き合って彼女作んねえよ」 「ブンちゃん…そういうの、俺お断りじゃから」 ……やっぱ仁王って優しくねえな。 「それに丸井に彼女が出来るとは思えん。…ちゅうことは俺に彼女が出来ることはないな」 「やっぱ一発殴らせろ」 「ピヨ」 ニヤニヤと笑う仁王に、俺は溜息を吐いた。 「お、溜息吐いたら幸せ逃げるナリ。早く吸いんしゃい」 「お前のせいだろぃ」 「そりゃあ心外」 気付いたら失恋したことが気にならなくなっていた。 ……仁王の良いとこってこういうとこかもしんねえな。 だからってお礼なんか言ってやらねえけど。 でも、多分それすらも仁王は分かってんだと思う。 今もニヤリと悪どい笑みを浮かべながら俺を見てるし。 全部見透かしているようなあの目を俺に向けて。 だから俺は仁王にお礼なんか言わない。 言う必要もない。 何だかんだ言って、きっと仁王は俺の言いたいことなんかすっかりお見通しだし。 「のう、ブンちゃん」 自分の世界に入ってた俺を仁王は呼ぶ。 「何だよ」 「ゲーム、負けてるぜよ」 「あ、早く言えよ!」 「ククッそりゃあ無理じゃ。俺も今気付いたし」 くっそ、もう負け寸前じゃん。 俺がゲームに夢中になってるとき、仁王が何て言っていたかなんて聞いてなかった。 「…単純な癖に難しいことを考えるモンじゃなかよ」
――― 企画『プリっとガムった』様に提出
僕には無い優しさ
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