短編 | ナノ



ああ、私はきっと。
「好きだよ、李紅」
「ありがとう」
そっと頭を撫でながら話す彼を見つめ、私は笑う。
「……君は、俺を好きだとは言わないね」
悲しげな顔をして彼は言う。
「そうかな」
「そうだよ。君は誰かのことを好きとは言わない、誰でもだよ」
「分からないよ、もしかしたら他の人には言ってるかもよ」
「それはないね、だって君はいつだって好きという言葉を避けている」
いつだって鋭く私の心を覗き込んでいるような目で見つめられる。
「君はずるいね」
「私はずるくないよ」
彼の言葉にそう答えると彼は笑う。
「嘘つき」
「私は嘘をついたことはないよ」
「ほら、またそうやってまた嘘をつく」
彼は私の髪に触れながら言う。
「やっぱり君はずるいよ」
「私がずるかったら皆ずるいよ」
「そんなことないよ、だって……」
そこで彼は口を閉じて首を横に振った。
まるで何かを隠すように。
「………なんて、ね。うん、分かってたよ李紅が何もかも隠してそうやってのらりくらりかわしてるのなんて」
「隠すものなんて何一つないよ」
「……ほら、やっぱり嘘つきだ。じゃあ聞くけど、李紅は俺の名前を言える?」
……私は曖昧に微笑んだ。
それを見て彼はやっぱり曖昧に、でも悲しそうな顔をしながら微笑んだ。
「…ほら、ね。やっぱり李紅は何にも興味がないんだよ」
「私は何にも興味がないんじゃないよ、ただ面白いものがないだけだよ」
だってそうじゃない。
私がいなくても世界は回るんだよ。
そんな風に言えば彼はやっぱり悲しむんだろうけど。
「…さて、そろそろ部活に出なくて良いの?」
「………うん。そう、だね」
手を離して彼は言う。
名残惜しげな彼の視線に気付かないフリをして私は立ち上がる。
「これでも私は君を気に入ってるんだよ、」
「…ほら、やっぱり嘘つきだ」
そう言って彼は泣きそうな顔で笑った。

結局私はどうしようもないのだ。