短編 | ナノ
私という存在は、いつだって後悔してばかりだった。 「……っだ、れや」 目の前でポロポロと涙を流す同じクラスの遠山君は怯えたような目で私を見つめた。 テニス部にばれないよう、彼は入学当初から虐められていたのだ。 気に食わない、生意気だ。 そう言われ、遠山君の人権はドンドン奪われていった。 誰にでも人懐っこく、対等な態度で話す遠山君。 段々とその明るさもなくなって、いつも怯えたような目で辺りを窺っていた。 唯一何も知らないテニス部のレギュラーの人達といるときは、遠山君は元の明るい性格でいる。 …私は、同じクラスでありながら傍観という立場にいた。 それは私が虐めをしたくないという気持ちもあったけど、もし遠山君を助けたら私も虐めをされるのではと考えてしまったからだ。 そうやって私が臆病になって見ている内に、遠山君に限界が来ていた。 それが、今。 遠山君の足元にはガットの切れたテニスラケット、そしてザンバラに切られ落ちた遠山君の髪。 そして…遠山君の手に握られている割れたガラスの破片。 「遠山、君」 私は静かに呼び掛けた。 「誰や、言うとるんや…!」 一歩、後ろに後退る遠山君。 「…馬鹿で最低な傍観者、だよ」 そう。 私は自分の身可愛さに遠山君を助けなかった。 そうして私は影からこっそりと見ているだけだったけど、一つだけ気づいたことがある。 ……テニス部のレギュラーの人達は遠山君の様子が変わったことに気がついている。 それでも理由を知ろうとしないのは、動こうとしないのは何故なんだろう。 自分の身が可愛いから? そう考えたとき、自分の身勝手さを罵った。 やっていることは、変わらないじゃないか。 だから私は一歩だけ踏み出すことにした。 遠山君と一緒にいようと思った。 「ぼうかんしゃ…?」 「私は、謝らないといけないよ。遠山君、ごめんね」 「え、あ……」 遠山君の手からガラスの破片が落ちる。 遠山君の手から血が滲んでくるのを見て、私はハンカチで遠山君の手を巻いた。 「何もないよりはマシだから。…遠山君?」 「っ、うあ…ああっ!」 先程よりも更に大きな声で泣きながら遠山君は私を抱きしめた。 「………」 「いた、かった…怖か、た!」 しゃくりあげながら遠山君は泣き続ける。 「ワイ、何もしとらん…っ」 「うん、知ってるよ。遠山君は悪いことしていないの」 だって、遠山君は妬みで虐められているんだから。 一年生でレギュラーに上り詰めた、それは嫉妬の対象になる。 だからこそ、テニス部のレギュラーだけが知らないのだ。 遠山君が虐められているのを。 …知って尚も動こうとしなかった私は最悪なのだろうか。 こうして動くのも、私の自己満足であり偽善故だ。 純粋な遠山君は私が偽善者だと知らずに、私に抱き着く。 ぎゅううう。 しっかりと私のお腹の回りに回された腕はしがみついて離さない。 「…遠山君」 「っな、んや…」 私は遠山君の頭を撫でながらこれからどうするべきか考えた。私がこうして動いたということは、全校生徒は私と遠山君を潰しに掛かるということだ。 そして、そうなれば私は遠山君を守りながら遠山君の虐めをなくして私自身にも被害が来ないように立ち振る舞うことが必要になってくる。 先程から感じる視線は恐らくテニス部の誰か。 特定は出来なくても、少なくともレギュラーではないことは確か。 「…何とかしなきゃなぁ」 溜息混じりに私は呟いた。
傍観者と、ゴンタクレ
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