短編 | ナノ



俺が入院している病院に時折〈笑顔配達人〉と名乗る女の子が来ている。
月に二回くらいだろうか、来ては病院の中庭で何らかのパフォーマンスをしては帰って行く。
それは例えば手品だったり紙芝居だったり、はたまた歌を歌ったり。
とにかく見ている人を笑顔にしては帰って行く女の子。
「……君は、何でこんなことをしているの?」
テニスが出来ないかもしれない、そう聞いてしまっていたから俺はいらついていたんだと思う。
その女の子にそのイライラをぶつける為に話し掛けた。
「何でって……」
急に話し掛けられた女の子は困ったような顔をした。
「君のやっていることって自己満足じゃないの?」
俺の言葉に傷付いたような表情になった女の子は迷った後に小さな声で言った。
「笑顔ってね、凄いんだよ。笑顔は人から人に移って行くの。辛い時に人の笑顔を見ると頑張れるし、励みになるの。病気や怪我をしてて落ち込んじゃってても、笑顔を見ると元気になれる。病は気からって言うし……だから、その……」
俺のことを見ながら言っていた女の子は最後の方は更に小さな声で続けた。
「ごめんなさい、貴方にとっては不快な発言だったよね。でも、笑顔って凄いから。笑うって大切なんだ」
パタパタと走り去った女の子を呼び止めることは出来なかった。
俺は彼女の言葉に打ちのめされたからだ。
部活の皆だって不安な筈なのに、笑顔で見舞いに来てくれていた。
それなのに俺は勝手に一人で嘆いて、それに気付こうともしなかった。
「笑顔は凄い、か………そうかもしれないね」
少なくとも俺はあいつらの笑顔で安心していたんだ。
「手術、受けてみようかな」
そう決意して、病室へと戻りはじめた。
今日も見舞いに来るであろう皆に手術を受けると伝える為に。

必殺!笑顔配達人