短編 | ナノ
「真田、」 「……お前か」 「お前か、とは心外だなあ」 くすり、と笑い私は隣に座った。 「で? 何をそんなに悩んでいるのさ。私でよければ聞いてはあげるよ」 「お前はいつもそのような感じだな」 「褒め言葉だよ、それは」 戯言を返すと真田は僅かに笑った。 けれどそんな笑いもすぐに引っ込めて、暗い顔をした。 「…幸村が、入院したんだ」 「……うん」 「いきなり、目の前で倒れた」 「……」 「何も出来なかった、」 「…………」 真田の声は搾り出すような声だった。 いつもの自信に満ち溢れた真田は何処にもいなかった。 「……で?」 「な……」 「真田はどうしたいの、『幸村』にどうなってほしいの」 私の言葉に真田は押し黙った。 「真田のいいところって真っ直ぐなとこでしょ、てかそれ以外知らないし。お前が落ち込むと他の人が余計落ち込む。肩張れとは言わないけど、むしろお前が落ち込むより幸村を元気付けやがれ」 言いたいだけ私は言うと立ち上がった。 「有り難い私からのお言葉、しゅーりょー。あとは自分次第ってことで一つよろしく」 呆然とした様子の真田をチラリと見て、私は立ち去った。
「……また、叱られてしまったな」 俺は此処に来るあいつにまたもや叱られた。 俺に悩みがあるときだけ時折やって来ては叱り去って行く、そんなあいつ。 名前も知らないあいつは何故こうも的確に俺の悩みを解決して去って行くのだろうか。 「また、名を聞きそびれてしまったな」 俺の名前は聞いた癖に自分の名前も教えず立ち去って行くあいつを思い浮かべ、俺は立ち上がりその場を後にした。
「真田、立ち直れたかな」 学校では掛けている眼鏡を外し、高く結わいている髪を解いて私は図書館の端の窓からコートを見ながら呟いた。 「あーんな老け顔なのに悩むとか更に顔が老けちゃうよー、と」 「悪かったな、老け顔で」 「え、」 聞き覚えのある声に私は振り返る。 「お前に礼を言おうと思って探し続けていたが…まさか同じ学校だとは思わなかった」 「あ、はははー…」 「お前は俺に悩みがあるときにしか現れなかったのはそれでか」 「まあ、ね。私は君の悩みと言うより悲しむとこを見たくないんだよ」 「む、どういう意味だ」 「さあね。あ、私の名前は教えないから」 「何故だ」 「だって、ねえ…真田との関係はこれくらいが心地良い」 そう言って私は笑った。
あなたの悲しみに寄りそう
企画 花天月地様に提出しました。
竜胆
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