短編 | ナノ



「桑原君、丸井君が呼んでたよ」
「そうか?教えてくれてありがとな」
桑原君は、優しい。
隣の席になってからそう感じるようになった。
絶対モテると思う、んだけど…。
「やっぱり幸村君、かっこいいよね!」
「仁王君だってかっこいいわよ!」
……何か、周りの女の子達は他の人のことばっかりだなあ。
「お疲れ様、桑原君」
「片岸…サンキューな」
本当、いい人過ぎて損ばっかりしているな。
そんなことを考えながら私は持っていたレモン味のアメを渡す。
桑原君、疲れてそう。
「おっジャッカル。いいもん持ってんじゃんか。俺にくれよぃ」
「あ、これは…」
丸井君が近づいて来ていたらしくて、桑原君に渡したアメを指差して言った。
「丸井君、私のでよかったらあげるよ」
桑原君にあげたものをあげる訳にはいかないから、代わりのアメを差し出した。
「いいのか?」
「うん、それは桑原君にあげたやつだし」
「サンキュー、えーと……ジャッカルの隣の席のやつ!」
「おい、失礼だろ!……たく、悪いな片岸」
「ううん、今まで話したことなかったからしょうがないよ」
同じクラスにはなったことあるけどね。
席も離れてたし、しょうがない。
「お前…変わってんな!」
「え、」
「もう知ってると思うけど俺は丸井ブン太。シクヨロ」
「え、あ…うん。片岸李紅です」
「つー訳でジャッカル!片岸のこと昼休みにカフェテラスに連れて来いよ!そんじゃー授業始まるからまたな!」
「は?おい、ブン太!」
言いたいだけ言うと丸井君は走り去って行った。
……え、何事?
「悪いな、片岸。迷惑かけちまって」
「いやいや…何か分からないけど逃げるからいいよ」
「俺に宣言するなよ!」
桑原君からツッコミをされた。















昼休みは逃げたけど、放課後は上手くいかなかった。
「ホームルームサボって正解だったぜ…昼休み来いつったのに来ねえし。ジャッカルもジャッカルだろぃ、何で連れて来ねえんだよぃ」
不機嫌MAXの丸井君に見事に捕まった。
「だって…私、カフェテラスに行ってもお弁当あるし」
「別にいいだろぃ、弁当持って来て食ってるやつだっているし」
「そもそも食べる友達いるし」
「キャンセルしろよ」
「横暴だよ丸井君!」
「ブン太、片岸に迷惑かけるなよ」
桑原君が丸井君に注意してくれるけど無視して丸井君は続ける。
「しかもジャッカルは俺の昼飯買いに行って違うやつ買って来るしよ」
「悪かったって言ってるだろ?」
丸井君、桑原君にそんなことまで頼んでたんだ…てか、それパシリ?
「そもそも何でいつも俺に頼るんだよ!」
「ジャッカルだから」
桑原君の問い掛けに丸井君は即答した。
……ええー。
どうしよう桑原君が不憫な気がしてきた。
でも傍から見てると桑原君何だかんだ言ってもお世話してるよね。
主に丸井君とか、一つ下の……あれ、きるはら君だっけ?
とにかく見てると親子な感じだよね。
微笑ましいものを見るような目をしたら丸井君に頭を叩かれた。
「んな生暖かい目でこっち見んな!」
……だって親子に見えるし。
「おいブン太!……大丈夫か、片岸」
丸井君を咎めるように口を開いたあと私の頭を労るように撫でた。
……それ私の頭がおかしいみたいな感じに聞こえるよ、動作がついたことで。
「うん、大丈夫大丈夫。私石頭だし」
「だから手がこんなに痛むのかよぃ…」
何かごめんよ丸井君。
「大丈夫かブン太?」
「あ、冷やす?氷貰ってくるけど」
「あー…片岸は此処でブン太のこと見ててやってくれ、俺が取りに行ってくる」
桑原君はそう言うと走り去った。
「…ねえ丸井君」
「んー何だよぃ」
「何で桑原君モテないんだろうね」
「あー……あいついいやつ止まりなんだよな」
「ああなるほど」
「ま、俺の方が天才的だし?」
「……うんソウダネ」
バレンタインは桑原君にチョコをあげようと思いましたまる。

優しい眼差し