プロローグ
 

目を覚ますと誰かに抱きしめられていた。
サラサラな黒髪が見える。
なんだかくすぐったい。
「苗字…」
囁かれた声は、同じクラスの柳君だった。
「!?」
咄嗟に私はビンタをした。
「…っ、痛いな」
「な…な…っ」
「何で抱きしめているのかとお前は言う」
顔を僅かに顰めながら柳君は私がビンタした方の頬を擦りながらそう言った。
「…ふむ、そういうことか」
一人納得したように声を出した柳君を尻目に私は周りを見渡す。
…見たことがない部屋だ。
綺麗に片付けられていて、本棚には沢山の分厚い本とノートが置かれている。
ベッドと勉強机と立て掛けられたラケットバック。
それから写真立てと横に置かれた少し古いトロフィー。
「俺の部屋だ」
柳君がそんな私の様子に気付いたのかそんな風に教えてくれた。
「柳君の、部屋……」
「ああ」
自分はベッドに腰掛けて、私に机の前にある椅子を薦めながら柳君は頷いた。
「先程の質問だが最初に抱き着いてきたのは苗字、お前だぞ」
「…そんな嘘つかれても」
「嘘ではないさ。…それに、俺がそのような嘘をついてどうするんだ」
……確かに、柳君はそういった嘘をつかないイメージはある。
けれど柳君と私は話したことが殆どないのだ。
だから私にはその判別がつかなかった。
「…私、帰る!」
「そうか。……苗字」
部屋を飛び出した私に柳は静かに声を掛けた。
「……何?」
振り向くことなく私が尋ねると柳君は優しい声で言った。
「何か困ったことが起きたら絶対に俺のところに来い。良いな?」
「それってどういう……」
振り返って尋ねようとした途端、私は足を滑らした。
最後に見えたのは微笑む柳君で、私は見事に階段から落ちたのだった。



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