イワン君との約束の時間。
待ち合わせ場所に行ったらイワン君とハンチング帽を被ったおじさんがいた。
……誰?
「あ、川上さん!」
顔を輝かせてこちらに近寄ってきたイワン君に挨拶をして、私はおじさんの方を見た。
…なかなかダンディーな大人の魅力を備えた人だ。
「お前がリンちゃんかー。おりが…イワンから話は聞いてるぜ。俺と同じ日系みたいだし、ついイワンと一緒に来ちまった」
…………『おりが』って何だ。
ツッコミを入れるべきか迷ったけど初対面である彼にツッコミを入れるなど…と日本人らしい遠慮をして黙って頷くことにした。
彼はへらり、と笑いながら自己紹介をしてくれた。
鏑木・T・虎徹というらしい。
虎徹って…刀の名前だよね。
両親のセンスが素晴らしいと思う、本人に言いはしないけど。
私も適当に自己紹介をしてイワン君を促し、観光案内をしてもらうことになった。
しかし鏑木さん、何で着いて来ているのだろうか。
鏑木さんはこの都市に住んでいるのだから別に案内なんて必要ないだろうに。
それとも私に何か用があるのだろうか…。
「なあ、そういえばリンちゃんって旅行でシュテルンビルドに来たんだよな?」
「ええ…まあ、そうですね」
鏑木さんの質問に頷いて返事をする。
観光で来た筈なのに初日から銀行強盗に巻き込まれて次の日はイワン君と日本について話してたから実質今日から観光だしなあ…。
まあ案内する気満々なイワン君と鏑木さんがいるからある意味良いかもしれないけど。
…でもイワン君が手に持ってるのは観光案内の雑誌だよね。
イワン君、何か心配だ。
とりあえず二人に着いて行きながら周りを見る。
なかなかに平和な感じだ。
銀行強盗なんかがあるからそこまで危険な感じにも見えない、けど。
けれど困った、この二人と一緒にいたらいつまで経っても観光してなくちゃならないかもしれない。
別にそれでも良かったけど視線がちらほらと痛い、何故だ。
まさかとは思うけど父親が娘の恋人がどんなやつか見極める為に一緒に遊びに来ているとかそんな感じで見られてるのか。
……いや、ないな。
いくらなんでもそれはない。
だって私年齢的にイワン君と恋人って言うよりも鏑木さんと恋人の方が合ってるだろうし。
流石に20代過ぎの女性と未成年は駄目だって、…未成年だよね?
まあ鏑木さんの左手には結婚指輪と数珠が着けてあるから既婚者なんだろうけど。
果たして数珠の意味を知っている人がどれだけこの都市にいるのか。
日本的な文化だから知らない人の方が多そうだ。
なんて考えてたら話し掛けられていたことに気付かなくて怪訝そうな目で見られた。
「すみません、何の話でしたっけ」
「俺の仕事のパートナーの話してたんだよ。…あー、どうしたら俺にツンツンしないんだか」
「大変ですね。仕事上のパートナーでしたらちゃんとお互いを尊重出来ないとなかなか仕事での連携も上手くいかないですし」
相槌を打ち鏑木さんの話を聞いてると、鏑木さんの目がキラキラしてた。
「リンちゃん、良いやつだな…!イワン、いい友達が出来たな!」
バンバンとイワン君の肩を叩く鏑木さん。
イワン君が痛そうにしてるけど鏑木さんは気付いてないみたいだ。
…イワン君も言えばいいのに。
というか、友達……。
イワン君と友達なのは嬉しい、嬉しいけどイワン君は友達っていうより何だか後輩的な感じがする、むしろわんこ。
「リンさんと友達…?」
「え、違うのか二人とも」
「い、いいんですかリンさん」
「いいけど…私なんかと友達でいいの?」
「! だ、大歓迎というか…その、嬉しいでござる!」
……ござるって。
イワン君が時々なんかキャラが違う。
何でなんだろうか。
「ちょ、イワン!ござるはまずいだろ」
「……あ。リンさん、別に今のはちょっと混乱してたというか…別に折紙」
「あー大丈夫分かってる。日本文化が好き過ぎてござる口調が出ちゃったんだよね」
「………え?」
「え?」
何、今変なこと言った?
だってイワン君、日本文化が好きって言ってたよね。
ていうか…また折紙?
折紙って、何なの一体…ん?
折紙……折紙サイクロン?
………まさか、ね。
うん、ないない。
そんな偶然あってたまるか。
「…あー!そういやリンちゃんには絶対観光に来たなら覚えて欲しいヒーローがいるんだった」
唐突に鏑木さんがそんなことを言って話を逸らした。
…なんかすみません。
気を使わせました。
「絶対に覚えて欲しいヒーロー、ですか」
「そうそう、"レジェンド"ってヒーローなんだけどな」
そう言って鏑木さんは少年のように目を輝かせながらレジェンドの話をしてくれる。
鏑木さんにとって、レジェンドは永遠の憧れなんだそうだ。
私にもその気持ちが痛い程分かる。
私もヒーローにずっと憧れてるから。
…うん、鏑木さんとはいい酒が飲めそうだ。
「それで、リンちゃんは好きなヒーローはいるか?」
「好きなヒーロー、ですか?」
困った、これは私が昔から好きだったヒーローの名前を言えばいいのか、それともシュテルンビルドで活躍しているヒーローの名前を挙げればいいのか。
「…まだこちらに来て日が浅いので、何とも言えません」
仕方がないから軽く流した。
え、二人とも残念そうな顔をしてるのは何故。
「そ、そうですよね…まだ来たばかりですもんね」
「ああ、そうだよな…うん」
「何で二人ともそんなに落ち込んでるんですか」
二人の琴線が解せぬ。
そんな二人を無視してると二人が着けているブレスレットからコール音が鳴った。
まずい、といった顔をした二人は私に謝った。
仕事先からの連絡らしく、今日は此処で解散になった。
二人同時にって…二人とも職場が一緒なのか。
まあ年齢層違うからなあ…。
でもイワン君、未成年なのに働いてるんだ……何だか負けた気分だ。
とりあえず二人を見送って、私はまだ暫く辺りを見て廻ることにした。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -