「聞いてください、皆さん!」
バタバタと慌てた様子でトレーニングルームに飛び込んで来たのは折紙先輩だった。
「おー、どうしたんだよ折紙」
おじさんが不思議そうに声を掛けた。
…折紙先輩は横にいて、あまり中心に立つということをしない人だから珍しいかもしれない。
だからおじさんもこんな不思議そうなんだろうけど…。
「きっ昨日のあの人質だった女の子に会ったんですっ」
「な、何だって…!?」
昨日の人質だった女の子………あの銀行強盗のときの、か。
正直僕からしてみたらどうでもいいけど、パートナーである(不本意だけども)おじさんが聞く気満々のようだ。
僕が聞かないと言っても無理に聞く体制を取らされるだろう。
仕方なく近くにある椅子に腰掛けた。
「さっき歩いてる途中に会って話し掛けられたんです。それで咄嗟に話をして……」
「折紙よくやったな!」
「え、ありがとうございます…?」
「おじさんの意味が分からない褒め言葉なら無視して構いませんよ、折紙先輩」
「ちょ、バニーちゃん酷くない?俺に対して」
「いつものことじゃないですか。…折紙先輩、続きをどうぞ」
「あ、はい。話してたら日本の方だって分かっていろいろ聞いてたんです。それで、その……」
恥ずかしそうに視線をさ迷わせながら折紙先輩は恐る恐るといった様子で言った。
「…明日、この街の観光案内をすることになりました」
「どんな会話をしたらそうなったんだ、折紙…」
おじさんが気になったのか聞いた。
「もっと日本のことを聞けないかと思ってまた会えないか聞いてみたんです。そしたら、旅行で来たっていうのを聞いてだったらと思って」
「それでですか…。折紙先輩、その人ってどんな人なんですか?」
「どんな人……あ、芯が強そうな人でした。大和撫子みたいな」
「大和撫子、ねえ…今時そんな子がいるなんて思えないけど」
「あれ、いないんですかおじさん」
「まあ…今は男女平等の時代だしな。男を立てる献身的な女ってのはなかなかいないと思うぜ」
おじさんの言うことは尤もだろう。
折紙先輩の中の大和撫子像がどんなものかは知らないから何とも言えない。
「あ、そういえばタイガーさんとバーナビーさんはアメリカって知ってますか?」
「アメリカ?…いや、知らねえけど」
「僕も聞いたことがないですね…何なんですか、それ?」
「ええと…僕もちゃんと聞いた訳じゃないから何とも言えないんですけど。川上さん…あ、人質だった女の子ですけどその人がそう言ってるのを聞いてしまって」
……聞いたことがない。
僕は両親の仇を探す為に様々なことを学んできたけど、アメリカなんて聞いたことがないのだ。
「アメリカ、ねえ…何かの食べ物か何かか?」
「食べ物、って訳じゃないみたいです。寿司バーの話をしてるときだったので」
「だったら寿司のネタか何かじゃないんですか」
「そうかと思ったんですけど…僕、寿司はよく食べるんですけどアメリカなんてネタで聞いたことがないんです」
日本通の折紙先輩が言うならそうなんだろう。
まして日系のおじさんが何も言わないし。
……あのときの杖捌きといい、只者じゃないということは分かっていたけど。
まさかウロボロスと関係が…?
いや、それだったら尻尾を出さないように人質になったときに何もしなければいい。
何もしなくてもヒーローが助けたのだから。
「……怪しい、ですね」
僕が呟いた言葉は聞こえなかったらしい。
不思議そうに首を傾げるおじさんと折紙先輩にごまかすように微笑んだ。
「折紙先輩、その人の名前を聞いておいても良いですか?」
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