彼はイワン君というらしい。
「へえ…日本の文化ってそんなものもあるんですね…」
熱心に聞いてくれるからついつい熱く語ってしまった。
話していて楽しかった、というのもあるけれど。
イワン君の知識は偏ったものもあるけど(腹切りとか武士道とかござるが語尾とか)なかなかに詳しいものだったのだ。
ついつい折紙の話までしたらやけに挙動不審になっていたけど。
折紙に何かトラウマでもあったのだろうか。
「お寿司なんかも有名ですよね」
「ああ…生だから結構珍しいとか思わなかった?」
「最初に知ったときはビックリしましたけど、寿司バーもありますし。よく食べに行くんですよ」
「寿司バー…何かアメリカみたい」
「あめりか?」
不思議そうに聞き返すイワン君はきっと世間知らずなんだろう。
説明するのを放棄した私は「外国のことだよ」とだけ告げて、寿司のネタについて尋ねることにした。
「お寿司っていうと色んな魚があるけど何のネタが一番好き?」
「寿司のネタですか…マグロも好きですけど今はイカも食べてます」
「イカ食べるんだ。あれ、結構コリコリしてて噛み切り難いから好み別れるような気がするけど」
私はイカよりタコ派だしなあ…。
一番はうずら納豆だけどね。
「イカのあの食感が良いんですよ」
ニコニコとイワン君は言う。
…うーん、通だね(?)。
とりあえずうずら納豆薦めてみようかな、納豆のネバネバは苦手って人も多いけどやっぱりうずら美味しいし。
うずら納豆好きに悪いやつはいないよきっと。
「うずら納豆って食べたことある?」
「うずら納豆、ですか…?すいません、僕は食べたことないです。行きつけの寿司バーにはなくて…」
申し訳なさそうなイワン君。
…まあ納豆、置いてないかもしれないけど。
卵を生とか食べないだろうから多分抵抗もあるだろうし。
「ううん、機会があれば一度食べてみなよ」
「はい!」
キラキラした目で頷くイワン君。
…ああ、チワワな感じかな。
なんてイワン君に癒されてたけど時間が大分遅くなってるのに気が付いた。
あまり遅いとエリザさんとテオ君に心配を掛けてしまう。
名残惜しいけどそろそろ帰らなくては。
イワン君にその旨を伝えて立ち上がると残念そうにイワン君も立ち上がった。
「そう、ですか……あのっ」
「何だろう、イワン君」
「また、日本のこと教えてもらっても良いですか?」
「…あー、うん。観光の合間で良ければ」
「観光の方だったんですか…」
少し落ち込んだイワン君に曖昧に微笑んで頷くと、「観光だったら案内します!」と顔を真っ赤にして言われた。
その勢いに圧されて頷くと「明日、朝の10時にこの公園で、待ち合わせで良いですか?」と聞かれ、なるようになれと頷いた。
……意外とイワン君、押しが強いところがある。
流石外国、日本とは違ったナンパだな、なんて茶化して考えた。
イワン君と別れてエリザさんの家に戻ると既に夜ご飯の準備が終わったらしく、綺麗におかずが並べられていた。
今日はシーフードピザのようだ。
テオ君はすっかり疲れて寝ていたのでエリザさんと二人で食べることになった。
「どうだったかしら、観光は?」
「観光…というより、知り合った人と日本について話してました」
「あら、」
目を瞬かせたエリザさんに明日はイワン君が観光案内をしてくれることを告げると「楽しんで来てね」と微笑んでくれた。
「でも少し心配だわ…リンさん、変な人に引っ掛からないようにね?」
「大丈夫ですよ」
これでも20過ぎてます。
やっぱりこちらの人から見るとアジア系の顔立ちは幼く見えるのだろうか。
あまり年のことは言いたくないから伝えはしないけど。
「あ、もうこんな時間。リンさん、シャワーを浴びて早く寝ないと待ち合わせに遅れるわよ」
慌てた様子でエリザさんが食器を持って立ち上がった。
「手伝いますよ」
「大丈夫よ。リンさんはお客さんなんだから気にしなくて」
お客さんというか、居候なんだけどな。
けれど確かに時間がもう遅いというのも事実なので言葉に甘えてシャワーを浴びることにした。
「お休みなさい、エリザさん」
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