ヒーローは存在したらしい。
犯人達と私を見据えるヒーロー達に私は瞬きを繰り返した。
あんなに憧れていたヒーローが目の前にいるのだ、今の状況を忘れてガン見してしまった。
「それ以上近寄るとこの女の頭を撃ち抜くぞ!」
その一言にヒーロー達は悔しそうにこちらを見る。
それはそうだろう、あと一歩で捕まえることが出来るというのにこのままでは動くことも出来ない。
「卑怯だぞお前!」
白と緑の戦隊物のヒーローのようなスーツを着たヒーローが叫ぶ。
「おじさん、あまり挑発したら…!」
それを諌めるように隣に立つ白と赤のヒーロースーツを纏ったヒーローが声を掛ける。
「分かってるっての、バニー!」
「バニーじゃありませんバーナビーです!」
「アンタ達二人とも…!今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
青い髪に青い目をしたセクシーな格好の女の子が二人を睨みながら言う。
私はそんなヒーロー達のやり取りを見ていて吹き出した。
今はそんなことしてる場合じゃないというのに何だか和んでしまったのだ。
「お前、何笑って…」
主犯の声を聞き、私は口元を引き締めた。
危ない、下手に刺激するといつ発砲するか分からないのだ。
ヒーロー達が来たことで私を人質に取っている主犯以外は銃をヒーローに向けている。
…ヒーローというのは銃器にも強い、のだろうか。
若干全員が牛のようなスーツを着た人の後ろに隠れているように感じるのは何故だろうか。
まあヒーローなら銃器も大丈夫だろうと考え、私は周りにあるものを見る。
「──あ、」
足元に一本の杖が落ちていた。
木で出来ていて、細めだけどないよりはマシだと思う。
主犯の目がヒーロー達に行っているのをいいことに、私は足で杖を私の手元に来るように蹴り上げた。
そして私の腕を抑えている主犯の腕を捩るように振り切り片手で杖を掴み呆然としている主犯の銃を持っている手首に向かって。
「篭手!…胴!」
叫びながら竹刀のように一撃を入れて銃を落とさせた。
ついでに犯人の胴に一撃を入れ、銃を拾う。
どうやら銃弾は入っていない、ダミーだったようだった。
ポカンとした様子でそのやり取りを見ていたヒーロー達は急いで他の犯人達を捕まえていた。
この隙にと私は銃をヒーローの足元に投げ、杖を床に置くと人質の方に向かってその中に紛れ込んだ。
「ふう…あ、大丈夫でしたか?」
冷や汗を拭いながら、先程の女性に声を掛けると「え、ええ…」と戸惑い気味に頷かれた。
「貴女の方こそ大丈夫だったんですか?」
気丈なのか先程よりも良くなった顔色になっている女性に聞かれた。
「まあ…大丈夫ですよ。助かった訳ですしね」
「それもそうよね…」
笑顔で答えるとホッとしたような顔でそういう女性に男の子がしがみつく。
「こわかったよう…」
「大丈夫、もうヒーローが来て助けてくれたから」
女性が頭を撫でながらそう言うと男の子が笑顔になる。
「うん…あ、お姉ちゃんもかっこよかったよ!ヒーローみたい!」
「! ………ありがとうね」
私に笑顔でそう言って、男の子はキラキラとした目を向ける。
…ん、お姉ちゃん?
私お姉ちゃんって言われる程若くはないと思うけど…やっぱり日本人は童顔なのかな。
人質の方にとやって来たヒーロー達はキョロキョロと見回して、全員が無傷なのを確認すると外に連れ出してくれた。
私は手持ちの帽子と上着を着ていたから特に気付かれることもなく、あの母子と一緒に外に出て来た。
「えへへ、お姉ちゃんの名前聞いても良い?」
すっかり私に懐いてくれた男の子──テオ君と、そんな様子を微笑ましく見ている女性──エリザさんに何だか癒されつつ名前を告げる。
「リンお姉ちゃん!」
「リンさん、良かったら何かお礼させてもらえないかしら」
「いや、そんなお礼される程のことは……」
「私の気が収まらないの、ね?」
エリザさんとテオ君のお家にお邪魔することになりました。










「まあ、それじゃあこちらには旅行で…」
「はい。羽を伸ばそうかと思って」
「着いて早々大変だったわね。この都市は犯罪が多いから、危険よ?」
「え、そうなんですか?」
「ええ、今はHEROTVなんてものがあるくらいよ」
「HEROTV……」
ヒーロー、か……。
きっとあのヒーロー達はそのTVの人なのだろう。
そう考えると何だか寂しいような気もするけどやっぱりといった気持ちの方が大きい。
ヒーローはやっぱりテレビの中の存在なのだ。
それが妙に寂しかった。
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