サポートブックの一ページ目に住所が書かれていた。
どうやらそこに一時的に住めるみたいだった。
サービスが行き届いている旅行会社だ。
「この辺りなんだけど…」
流れてくる汗を拭いながら辺りを見回す。
それらしい建物は見つからない。
強いて言うなら目の前にあるのが銀行だということだろうか。
とりあえずは私の手持ちのお金を換金したい、サポートブックによれば銀行にある口座に一旦預ければ換金出来るらしい。
荷物も早く置きたいけどまずはお金だ。
銀行に足を踏み入れ、ATMの前に立ちお金をサポートブックの後ろに挟まっていた通帳(カード付き)を使って預けた。
いざ引き出そうとATMに手を伸ばすと周りがざわついた。
「金を100万シュテルンドル用意してもらおうか!」
野太い声、人々の悲鳴。
見れば窓口に銃を突き付けている男とそれを取り囲むように周りへと銃を向けている男達がいた。
……どうやら銀行強盗に早々に巻き込まれたらしい。
こうも冷静に考えられるのは日本ではなかなか巻き込まれることが少ない犯罪に巻き込まれた実感がないからか。
否、周りが動揺し怯えているから逆に冷静になれたのだ。
犯人は複数、全員が銃を持っている為人質の中には男の人もいるけど逆らえない。
私達は犯人達に脅され一カ所に集められた。
隣には泣きそうになっている子供がいて、私は不安になった。
子供が泣いてしまったら、それはきっと伝染する。
不安というのはちょっとしたことで伝染してしまうのだ。
母親らしい女性がそんな様子に気付いて青い顔色であやそうとしている。
彼女も、怖いのを抑えて必死に生き延びる術を探しているのだ。
私は思った。
どうか本当にヒーローがいてこの状況を打破してくれないかと。
いないなんてこと知ってるけど、それでも祈るくらいは。
苛立った様子の犯人達はラジオを聞いている。
ラジオの内容は遠くてあまり聞き取れないものの既に銀行が囲まれているとだけは聞き取れた。
もう諦めた方が良いだろうに、犯人達はまだ逃げる気でいるみたいだ。
「おい、そこの女」
「っはい…」
そんな中犯人達が目を付けたのは私の隣にいた、あの母親らしい女性だった。
「お前を盾に俺達は銀行から脱出する、逆らえば…」
「や…止めて!息子に手は出さないで!」
銃を子供に向けられ女性は叫んだ。
「…あの」
私は咄嗟に声を出した。
全員の視線が私に集中するのを感じながら私は犯人達に言った。
「その人質、私が代わりになります」
そう言った瞬間の静かさを私は忘れないだろう。
それほどまでに、その場は静まり返っていたのだから。
「正気か?」
「正気ですよ。彼女は見たところまだ妊娠中、逃げる際に足手まといになりますよ?」
服装を見ながら言うと犯人達は目配せをして、私が人質になるのを了承した。
…何も考えずに人質になったは良いものの私、どうしようか。
今この状況で暴れるって選択肢はない。
主犯らしい男に腕を掴まれて銃を突き付けられてて他の人は外に向けて銃を構えている。
外には警察が待機している筈だから威嚇しているのだろう。
絶対に他の人が安全だと言い切れるなら主犯一人くらいなら銃を取れると思う。
けれどあくまでも他の人が安全であるという条件でのみなのだ。
私にはどうする術もなかった。
もう少し考えてから声を掛けても良かったんじゃないのか、とも考えたけどどちらにしよこのタイミングでなきゃ彼女が人質になっていた筈。
でしゃばるもんじゃない、かも。
表情を変えないまま冷や汗を流して私は銀行の外を祈るような気持ちで見つめた。
早く助けに来てよ、警察でもヒーローでも良いから。
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