私は、ずっとヒーローに憧れていた。
どんな凶悪な敵にだって諦めずに立ち向かう。
それが私の中のヒーロー像だったのだ。
私もヒーローになりたかった。
でも私はただの一般人で、ヒーローはテレビの中だけの存在で。
いくら願っても私がヒーローになれることはなかった。
そんな、私がヒーロー達に会えたのは偶然だったのだろうか。
──否、きっと運命だったのだと信じたい。
温かく何処までも正統派な風のヒーロー。
冷たいけれど本当は優しい氷の女王。
女性の心を持つ情熱の炎のヒーロー。
小さな体に雷電を走らせるカンフーマスター。
スポンサーロゴを魅せる見切れ職人。
鋼鉄の皮膚を持つ猛牛戦車。
クールに決めるニューヒーロー。
そして、人を助けることを優先する正義の壊し屋。
夢だなんて言わせない。
私は夢なんて思わない。
「初めまして、ヒーロー」
ワクワクするのは、きっと。










シュテルンビルド。
孤立した都市であるこの地に、私が足を踏み入れることになったのは故郷である日本で福引きの特賞を引き当てたからだ。
私の住んでいるアパートの近くにある寂れた商店街、最近町起こしの為にいろいろ活動していたらしくこの福引きというのもその一環でのことだったらしい。
近くて安いということもあり私はよく利用していたのだが、福引券を5枚程貰い二等のお米10キロを狙って挑戦してみたら見事に当たったのは箱ティッシュ4つと特賞の旅行券。
まさか当たるとは思ってなかったので呆然とした状態で受け取って私は家へと帰った。
偶然にも私はこれから暫く仕事を休むことになっていて、気分転換には丁度良いのではないかと考えて旅行会社に連絡を入れるととんとん拍子に話は進み明日の昼過ぎに空港に来るようにと告げられて電話が切れた。
これから行く旅行に気を取られ、私は気付かなかった。
その旅行券に書かれた文字を。
『トリップトラベル──貴方を憧れの世界に招待します』
旅行の前の楽しみは、準備をすることだと思う。
久しぶりの旅行に私は浮かれに浮かれていたのだ。
いつもならば連絡も入れない友人に連絡を入れて鬱陶しがられても気にせず話をするくらいには。
場所のことを聞くのを忘れていたけどそんなのも関係なかった。
向こうにだってランドリーくらいはあるだろうし着替えは昼間の三着と寝間着が二着。
携帯と充電器、それにお気に入りのタオルにいざという時の痴漢撃退用グッズ。
やっぱりこういったものがないと不安なのだ。
それからメモ帳とペン、飲み物やお菓子などなど。
用意するものを考えながら大きめの鞄に詰めていき私は一息吐いた。
なかなかに用意は大変だった。
もう遅くなってきていることだし今日は寝た方が良いかもしれないと水で栄養剤を飲み布団に入る。
この慣れ親しんだ布団とも二三日お別れか、なんてぼんやりと考えつつ目を閉じると私はいつの間にか寝ていた。
余裕を持って空港に行けば、人の姿が殆どなくギョッとする。
「あの、何で人がいないんですか?」
「今日フライトは我会社の持っているプライベートジェット機だけですから」
にっこり微笑みながら言う添乗員さんに曖昧に返事をしつつ指定されたジェット機に乗り込むと、やっぱり人は殆どいなかった。
『Attention please?本日は我社のトリップツアーに参加いただきありがとうございます。こちらでご用意させていただくものは向こうの通貨、そして言語翻訳、生きる為の能力、最後に戸籍のみとなっています』
機内放送が流れる。
何だか変わったサービスをしてくれる会社だと思いながら私は窓から外を見た。
言語翻訳は通訳さんが着くってことだろうし、向こうの通貨は私の手持ちのお金を換金してくれるんだろうし。
生きる為の能力と戸籍っていうのが気になるといえば気になるけどさほど気にせずに窓の外の風景を眺めた。










いつの間にか寝てたらしい。
着いたというアナウンスに目を覚ました私は随分とハイテクな都市、シュテルンビルドに着いた。
『川上様が寝ていらっしゃる間に手続きは完了いたしました、詳しくはサポートブックを置いておきましたのでそちらをお読みください。それではよい世界を』
飛行機から降りながらそんな言葉を思い出し、私はサポートブックを右手に、荷物を左手に持ちこれから数日を過ごす街を見つめた。
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