雑貨屋で面接をして三日目。
お店の雰囲気に慣れてきたように感じる。
店長は本名不明のダンディなおじさまで、ファンシーなお店の雰囲気と合わない。
基本的にいなかったり、お店の奥にいることが多い為お客さんの相手をすることは少ないようだ。
…このお店大丈夫なのかと言いたいけれどそれで成り立っていたのだから凄いところだ。
カランカラン。
涼しげなベルの音が鳴り、私はお店の扉の方を見て「いらっしゃいませ」と声を掛けた。
そこにいたのは背の高い……男性?だった。
短めの髪に口紅を塗った彼?はお店の中にいる私に気が付くと声を掛けてきた。
「あら、貴女…いえ、何でもないわ。ねえ、もしかして新しく入ったバイトの子かしら?」
何やら呟きかけ、彼?は言い直す。
「はい、そうですが」
「凄いわねえ、貴女」
「……はあ」
「彼、店長は若い子を雇わないのよ。仕事を任せるのが不安だって言ってなかなかお目がねに叶う子がいないのよねえ。んふ、店長は人を見る目があるからきっと貴女のこと信用に足る人物だと思ったのよ」
低めの声でそう言うと、「店長を呼んでくれないかしら」と私に頼んだ。
「はあ、分かりました」
私がそう返事をして店長を呼ぶと店長がすぐに出て来て楽しげに話を始めた。
常連のようだ。
「…それじゃあこの子、借りてくわよ」
「おお、まあ好きに扱ってやってくれ」
「え…」
いつの間にか話がまとまっていたのかそんな言葉が聞こえる。
私が慌ててそちらを向くと、店長から「給料は引かないから安心しろ」と言われ、送り出されてしまう。
「それじゃあ行きましょうか」
茶目っ気たっぷりにウインクして、歩き出そうとして「あら、アタシったら忘れてたわ」と足を止めた。
「アタシはネイサン・シーモア。よろしくお願いするわ」
「川上リンです。よろしくお願いしますシーモアさん」
そう返すと「そんなに堅苦しくしなくて構わないわ、ネイサンって呼んで頂戴」と笑いながら言う。
「ところで何故私を連れて?」
「そうねえ…何故、と言われてしまうとちゃんとした理由はないのよねえ」
少し困ったように頬に手を当てながらネイサンさんは考える。
「強いて言うなら、これからよろしくの意味を込めてかしらね。よくお店にお邪魔するのよ、アタシ」
「友愛を深める、ということですか?」
「そういうことになるわね」
ネイサンさんが頷き、一旦足を止める。
「リンはどうしてあのお店で働いているのか、聞いていいかしら?」
「もともと、他の雑貨屋で働いていたこともあり…仕事の要領としては変わらなかったので、きちんと仕事をこなせそうだと思って。あとは、お店の雰囲気が何処となく懐かしく感じたから…でしょうか」
「…今、何となく店長が貴女を雇った理由が分かった気がしたわ」
そんな風にネイサンさんが言うものだから私は頭を捻ることになった。
さて、私は何か可笑しなことを言ったのだろうか。
「貴女にとっては当たり前のことでも他の人にとっては当たり前ではないこともあるの」
私を見てネイサンさんはそう言って私を促す。
どうやら目的地は近いようだ。
しかしネイサンさんはコール音に足を止めてしまう。
「…ごめんなさいね、リン。仕事が入ったみたいだからまた今度伺うわ。そのときにでも来ましょうね」
少し慌てたように、けれど茶目っ気たっぷりにウインクをしてネイサンさんは立ち去ってしまった。
何の仕事をしているのかは分からないけれど急な仕事が入るような仕事だ、忙しいのだろう。
そんな風に考え、私は元来た道を辿り始める。
その後ろのビルの電工看板に映るHEROTVのナレーションに耳を傾けながら、けれど振り返ることはしなかった。
『おおっと、此処でファイヤーエンブレムの登場だー!』










「ただいま戻りました」
「ああ」
奥からは店長がHEROTVを見ているのか、テレビの音が響いて聞こえる。
今回はどうやらファイヤーエンブレムが犯人を逮捕したようだ。
「ヒーロー、か…」
「何だ、ヒーローに興味でもあるのか?」
「……まあ、そうですね」
「ほう。…だったら見に行って来たらどうだ?」
「え…」
「今度の日曜日にイベントがあると、宣伝にポスターを置いていかれた。…店の雰囲気に合わないから張りはしなかったが」
それだけを言って店長は時計を確認した。
「そろそろ時間か。上がっていいぞ」
店長はこちらを見ずに言う。
「分かりました、お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様」
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