そういえば私はいつまでこの国で観光が出来るのだろうか。
今まで全く気にも止めていなかったことがとても気になってしまった。
私の記憶が正しければ私はこのシュテルンビルドに来てから数週間は過ぎているのだ。
そしてもう一つ、何故私は今の今までこのことが気にならなかったのか。
けれどそれを口に出してはいけないような気がした。
口に出してしまったら最後、何かが崩れてしまうような。
そんな気持ちが私の中に沸き起こったからだ。
「リンお姉ちゃん!」
テオ君が私に声を掛ける。
「テオ君、どうかしたの?」
「あのねっ今日スカイハイがイベントで学校に来たんだよ!」
そんな風に話し出したテオ君の今日の出来事に耳を傾け、私は静かに思考する。
「僕もヒーローになりたいなあ…」
そんな一言に私はすぐさま思考の波から引き戻されてしまったのだけれど。
私が幼い頃憧れていたときのような表情で、そして強い決意を秘めたような表情でテオ君はその言葉を紡いだのだから。
そこで、何かが私の頭の中で警告を発した。
考えろ、何かが可笑しい。
ヒーローはテレビの中にしか存在しない、まして現実に存在することは有り得ない。
生中継のテレビにヒーローが映って銃を持っている人達に向かって青く体を発光させながら氷やら風、雷に炎を向けるなんて有り得ないのだ。
特撮でも何でもない、生中継のテレビ番組で。
「リンお姉ちゃん……?」
キョトンと首を傾げたテオ君は私の頬を触った。
「……ごめん、ちょっと考えごとしてた」
「ううん、僕が急に話し掛けちゃったから…リンお姉ちゃん、ごめんなさい」
しゅんとした様子で謝るテオ君。
テオ君の頭を軽く撫で、私はテオ君と連れ立ちリビングへと向かった。
リビングではお腹の膨らみが徐々に目立つようになってきたエリザさんが筒状の入れ物を作っていた。
「エリザさん、それは…」
「あら、リンさん。この間刀を購入したと聞いたから持ち運び用にケースをと思って」
ふふ、と笑いながら手元を指差すエリザさん。
革で出来たそれをただの針で打ったのかと私は驚いてエリザさんを見つめた。
そんな私の様子にエリザさんは悪戯っぽく「特注品なのよ」と答えてくれた。
「ああ、そうだわ。今日は外食にしようと思うのだけれど…何か食べたいものはある?」
「外食、ですか」
「僕、すしが食べたい!」
「テオ、今日はリンさんの好きなものを……」
「あ、いえ。私も寿司が食べたいです」
慌てて私がそう告げるとエリザさんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「何だかごめんなさいね」
「やったあ、リンお姉ちゃんありがとう!」
嬉しそうに笑うテオ君に癒されながら、私は椅子に腰掛けた。
「そういえばエリザさん、この辺りで働けるところってありますかね?」
「この辺りで?そうねえ…あ、なら近くにある雑貨屋さんなんかはどうかしら?」
「雑貨屋ですか?」
私が以前働いていた場所は雑貨屋だ、こんな偶然あるのだろうか。
ともかく私はそこに行ってみようと場所を聞いた。
今日はもう遅いから行けないが明日にでも行ってみよう。
そんな風に考えながら私は身仕度を整えた。
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