「よっ、リン。何してんだ?」
「あ、鏑木さん」
「名前でいいって」
「残念ですが年上の方の名前を呼ぶのは私のルールではないので」
「堅っ苦しいなリンは」
ブラブラと近所を散策していたら鏑木さんに会った。
…何だか鏑木さんに会う率が高い気がする。
あれ、気のせい…だよね?
「そういえばイワンのやつが会いたがってたぜ?」
「え、イワン君が?私も会いたいんですけど連絡も取れないから何とも言えないんですよね」
「連絡が取れないって、電話番号かアドレスでも交換してねえのか?」
「いやしてませんよ。私、携帯水没しましたし」
「…は?」
旅行に出る前に水没してそのまま放置したからなあ…。
正直携帯はあまり使わないからと思ってたんだけど此処に来てまさかの失敗だ。
うん、面倒だからってそのままにしたら駄目だと今学んだよ。
「…あー良かったらだけど、携帯買わねえか?俺、携帯扱ってる会社の社員(つーかスポンサーしてもらってる)だから安く買えると思うし」
「え、良いんですか?」
「そりゃあ、なきゃまずいだろ?こういうのは年上に甘えりゃいいんだって」
ニヒルに笑いながら鏑木さんは言う。
「…じゃあお願いします」
「おう。じゃあとりあえずこの近くにあるショップにでも行って見てみるか?」
「はい、…でも鏑木さんはこれからお時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。急な仕事が出来るまで連絡も来ないだろうしな」
歩きだしながら鏑木さんは言う。
私はその後ろを半歩程横にズレながら歩く。
「…リンさ、頼むから隣に来てくれねえ?落ち着かねえ」
「そうですか?なら遠慮なく」
「お、おう…(何か警戒されてねえか、これ…)」
鏑木さんの隣に並び私は周りを見渡す。
鏑木さんの後ろを歩いていたのは癖なのだが気分を悪くしてしまったのだろうか。
昔っから何と言うのだろうか、男気溢れる人の背中を見て育ってきた為かついつい年上の男性といるときは無意識のうちに半歩程後ろを歩いてしまうのだ。
まあ確かにシュテルンビルドでは風習的に女が後ろに立つなどないのかもしれないが。
「そういえばこのシュテルンビルドに来て一週間くらい経ったんですけどまだ慣れないことがあるんですよね」
「そういえばもうそんくらいになるんだったな。…で、慣れないことって?」
「……日本に比べると犯罪が多くて」
「あー…そういえばリンは日本から来てたんだったな。向こうはそんなに犯罪が起きないのか?」
「まあ起きるには起きるんですけど…軽犯罪、とでも言いますか。立て篭もりや銀行強盗といった類いのものはなかなか起きないんですよ」
万引きなども犯罪の一つだけれど、シュテルンビルドの状況と比較してしまえば何とも言えないのだ。
「だからHEROTVなどを見ると何だか複雑な気持ちになるんです。…あ、いやヒーローが嫌いとかじゃないんですけどね。ただ犯罪がこうも何日も続くことに慣れないっていうんでしょうか」
シュテルンビルドに来て、私の生活は変わった。
ように感じる。
流石というべきなのか海外は犯罪が常に隣り合わせだ。
日本では表面化していないだけなのかもしれないが。
……早いうちに日本刀を手に入れて身を守る方法が欲しい。
何だか犯罪が隣り合わせだとしても私の巻き込まれ率が高すぎる。
一週間で銀行強盗にデパートジャック、更には刃物で脅されたり。
前者の二つはともかく後者は軽く拳を入れた。
二十代の女性に向かって餓鬼はないと思う、餓鬼は。
つい年甲斐もなくカッとなって一発顔面に掌底を入れてしまった。
ううん、反省しなくては。
「そういえば鏑木さん、カリーナは元気?」
「おお、元気元気。この間なんかよ…………」
非常に楽しそうに教えてくれる鏑木さん。
鏑木さんの周りには素敵な人が沢山いるのか…。
「……っと、着いた着いた。ほら、早く入った入った」
立ち止まった店は私が愛用していたあの白い犬のCMの携帯ショップだった。
「じゃあちょっと奥に行って話してくるから選んどけよ?」
私の頭をポンと撫で、鏑木さんは店員に話し掛けた。
奥へと入って行く鏑木さんを見送り私は携帯を見始めた。
最近は携帯ショップに入ることもなかったからなかなかに新鮮だ。
カメラ機能や容量、持ちやすさを確かめながら私は見ていく。
……どうせ買い替えるならスマホでも買おうか。
スマホ売り場に足を運び、見ていく。
目に付いたのは淡い緑のスマホだった。
機能もなかなかいいし、値段も機能の性能の良さを見てもなかなかいい値段だ。
「お、決まったのか?」
店の奥から戻って来た鏑木さんが私の手元を覗き込む。
「はい、このスマホにしようかと思って」
「へえ…俺もスマホだけどこのタイプは初めて見たなあ」
そう言ってまじまじと携帯を見たあと、店員を呼んだ。
「これ、会計頼む」
「はい、分かりました。新規でいいんですよね?」
「ああ、あと……」
何やら鏑木さんが話している。
手渡された書類にサインをして、私が渡すと鏑木さんが保護者の欄に名前を書き入れた。
「ちょ、鏑木さん……!?」
「いいから甘えとけって、な?」
気付いたら手元にはスマホ、お金を払った覚えは全くなかった。
「………鏑木さん?」
「タダだから気にすることはないからな?」
じとり、と鏑木さんを見ると苦笑混じりに鏑木さんは言った。
「……ありがとうございます」
「おう」
手元の携帯にはデフォルメされた虎のキーホルダー(鏑木さんと同じ格好をした二等身のものだ)が付けられていて、既にアドレスが登録されていた。
「鏑木さん、これって…」
「それは俺の携帯の番号、でこっちのがイワンの番号な?」
あとで電話してやれよ、なんて言って笑った鏑木さんに私は再びお礼を言ったのだった。
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