未だに気付かない真似をして



何処からか視線を感じた、気がした。
滝さんにお礼を言った帰り道。
いつものように肩が重くなることもなく久しぶりにゆっくりと帰れた。
…よく考えたら今朝も、だったような。
あまり深く考えない方がいいと思って私はネックレスを摘み、まじまじと見つめた。
何だか暖かい気がした。
「……まさか。霊力とかそんなのある訳ないもん」
手を手を離したとき、私の指が引っ掛かってネックレスが何故か切れた。
「……え?」
紐の部分は鎖だった。
なのに何で…。
そう思って下に落ちたネックレスを拾おうとした。
ぞわり。
背筋が冷える感覚。
拾おうとネックレスに手を伸ばした状態で私は固まった。
今動いたら駄目だ、そんな思いが脳裏を過ぎる。
けれど明確に視線を感じる。
見たら、駄目だ。
そう思ったのに私はゆっくり顔を視線を感じる方に向ける。
そこに立っていたのは首が半分くらい胴体とズレている女性だった。
私と目が合った女性はにたり、と笑い私に手を伸ばしてくる。
私は声にならない悲鳴を上げて咄嗟にネックレスを拾い上げて女性から逃げ出した。
暫く訳も分からず走り続け、気が付けば家の近くの大通りに出ていた。
振り向いてももう女性の姿は見えなかった。
……今のは、一体。
呆然と立ちすくみ、私は数分くらい経ってから慌てて家に帰ることにした。










家に着くと私はネックレスを確認した。
まるで食いちぎられたようにネックレスの鎖が歪んでいた。
「………な、んで」
鎖はただ壊れただけでこんなふうになるものだっただろうか。
否、そんな筈はないのだ。
何故なら物理的にありえてはならないのだから。
「…………」
何だか安心出来る筈の家でもゾッとしてしまい、一人でいることが怖い、ような気がした。
けれどどうしようもないのだ。
私は幽霊なんて、信じてはいない。
先程のは疲れていただけなのだ。
…そう、信じたかった。
ぎゅ、とネックレスの飾りを握り締め私は夜を過ごした。
そうすることでしか、この不安な気持ちを抑えることが出来なかった。
そうして学校に行く為に私は家を出た。
「おはよー風見」
「…おはよう、」
「うわ、凄い隈。ちゃんと寝た?」
「うん、寝た……と思う」
「曖昧ー」
そう笑う友人達に上手く言葉が返せず、曖昧に私は笑った。
友人達に話したところで話のネタにされるくらいで本気にしてくれるとは思わないのだ。
だからこそ私も笑ってごまかす。
滝さんから渡されたあの鎖の千切れたネックレスを握り締め。
僅かに入ったダイヤの飾りの亀裂に気付くこともなかった。



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