Do not show one's weakness.



部活帰りの放課後。
俺はラケットバックを肩に掛けて帰路に着いていた。
最近、幽霊をよく見掛けるようになった。
今まではそんなに幽霊を見掛けることなんてなかったのに。
学校内も段々と増えて来たようだし…『譲渡』を使って結界を張った意味がなくなってきている。
…うーん、やっぱり俺一人の力じゃ足りないのかな。
そんな風に考えながら歩いていると、ふと道の端に誰かが塀に寄り掛かっているのが見えた。
………幽霊、ではないみたいだ。
近寄ってみると確かにそれは人だった。
うちの学校の女生徒。
顔は髪に隠れて見えないけど、スタイルはそこそこってところ。
何より気になるのは、彼女の肩には所謂悪霊というものがへばり付いていた。
…それも質の悪いモノが。
「おーい、大丈夫?」
俺は近寄り、そっと手首に触れる。
どうやら息はしているみたいだ。
…目の前で死んだら目覚めが悪いからね。
幸い今日はまだ何もしていないから、質の悪い悪霊だろうと追い払える。
「…スペードの5で良いかな」
溜息を吐くと俺は持ち歩いているトランプを取り出した。
使う数字に比例して霊力を消費するから相手の想いの強さをしっかりと見極めなくちゃならない。
跡部みたいに眼力に優れていればな…大分慣れてきたから外すことはないけど。
カードに力を込めて彼女の肩にへばり付いている悪霊に力を送る。
呻き声のようなものを上げる悪霊に俺は更に力を送り続ける。
少しずつ剥離してきた悪霊を素手で掴み引きはがす。
………これだけはどんなにやっても慣れないんだよね。
地面に投げ捨てるとこちらを恨めしそうに暫く見つめたあと、悪霊は消えていった。
「…さて」
悪霊は消えたけど、ここまで衰弱している彼女を此処に放置していったら確実にまた取り付かれる。
「あ、もしもし母さん?ちょっと道に女の子が倒れててね…その娘、家に泊めても平気?うん、うちの学校の子なんだ」
携帯で連絡を入れて、俺は彼女を背負った。
















「う、うん…」
彼女をベッドに寝かせ、荷物の整理をしていると呻き声がした。
見れば彼女が身じろぎをしながら目を開けていた。
「…あれ、此処は」
「あ、目が覚めた?」
「…………」
何故かガン見された。
「あれ、何で滝さんが此処に…いやそもそも此処何処?」
ぶつぶつと何かを呟く彼女を観察する。
「此処は俺の家だよ。道で倒れてたからね、俺の家が近かったから連れて来たんだ」
「え、倒れて…?」
「そう、倒れてた。危ないところだったよ、あのまま行くと…」
「あのまま行くと…?」
「何でもないよ。さて、とりあえずいくつか聞きたいことがあるんだけど…」
聞き返してくる彼女に微笑みごまかすと、俺は声色を真剣なものに変えた。
そんな俺に何かを察したのか彼女は黙る。
「…君は、非化学的な存在を信じる?」
俺はそう告げた。
「非化学的…幽霊とか、妖怪とか?」
「うん、大まかに言うとそう」
「……信じてないよ」
いかぶしげな顔をしながら彼女は言う。
「じゃあ、これ見える?」
「トランプ」
俺が霊力を込めている状態のトランプを見せると何を当たり前なことをといった様子で俺を見る。
…ああ、何だか納得。
俺の持つトランプは変わっている。
霊力を込めると柄が変わるのだ。
スペードは剣に、クローバーは根棒に、ハートは聖杯に、ダイヤは貨幣に。
そしてそれは霊感のある人にしか分からない。
彼女は霊力を持ちながら霊感を持たない、…つまるところ悪霊からしてみればこれ程良い餌はないのだ。
悪霊は霊力を好む。
霊力を自らの身に取り入れることで力を増すのだ。
悪霊がその霊力を増やす方法はいくつかある。
一つ目は年月を掛けて蓄積させること。
二つ目は霊力を持ったものを取り込むこと。
霊力とは命の源と言っても過言じゃない程に魂と直結している。
肉体と魂を繋ぐもの、とでも言えば良いのだろうか。
奪われるということは死ぬということだ。
一般人でも霊力を少なからず持っている。
けどあくまで少なからずだ。
だから、悪霊もあまり目を付けない。
取り付いてから霊力を取り込むのも力を使うのだ。
だったら強い霊力を持った人間から沢山取り込んだ方が利口。
そして大体の霊力が高い人は霊感もあって悪霊を避けたり除霊出来る。
けれど極稀にいるのだ、彼女のように霊力はあっても霊感がない人が。
霊感がない以上悪霊がいるのか分からない、なおかつ霊力の使い方を知らない。
悪霊からしてみれば格好の餌だ。
「まあ、暫くはこれで持つかな。…はい、常に身につけててね」
いくつか作ってあるダイヤの形を象った小さなチャーム付きのネックレスを渡す。
これには俺の霊力が込められている。
結界になっているけど持って二日くらいだろうけどないよりはマシだ。
元々、俺はトランプを媒体にしているからネックレスじゃあまり持たない。
まあだからってあまり関わる気はないんだけど…学校の結界も緩くなってるからなあ。
いくら見えないとはいえ、彼女の霊力の高さには目を見張るものがある。
俺よりはないみたいだけど、これだけ強い霊力があるなら力を借りれるかも。
俺の渡したネックレスを見て眉根を寄せている彼女に言う。
「ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」



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