「ふう…」
市は周りを見て溜息を吐いた。
今いる場所は学校の家庭科室。
時折市は家庭科室を借りてお菓子を作ることがある。
大半はテニス部への差し入れであったりするのだが、家では買わないお菓子を食べられる機会でもある為放課後に残って作るのだ。
「今日は何が良いかしら……」
最近はひんやりした羊羹や蜜豆を作っていたから、洋菓子を作ろうかと市は常備してある材料を見遣る。
何でも東京にある学校で作られている野菜などが置いてあるらしく分けてもらい、この野菜達を使用して学食を運営しているらしい。
それでもいくつか足りない材料を小さなメモ帳に書くと市はすぐさま買いに行こうと足を踏み出した。



















「材料も揃ったし、作り始めなきゃ……」
家庭科室に戻って来た市は淡いピンク色のエプロンを付け、髪をポニーテールにして結ぶ。
市が作ろうとしているのは抹茶フィナンシェ。
甘さ控えめで意外と子供でも食べられるものだ。
市は材料を取り出すと無塩バターを溶かし型に塗ると冷蔵庫に型を仕舞って、薄力粉とアーモンドプードルと抹茶パウダー、ベーキングパウダーを篩に掛ける。
よく篩に掛けた後鍋にバターを入れて火に掛けバターを溶かす。
鍋の様子を気にしながら市はボウルに卵白、グラニュー糖を入れてホイッパーを使ってほぐして馴染ませる。
そして鍋の方の火を止めて水に浸けてバターが焦げないようにしつつ、先程振るった粉をボウルに移す。
茶漉しを使ってバターをボウルに入れ、さらに蜂蜜を加える。
泡立て器を横に置きゴムベラで市は空気を混ぜ込むように混ぜる。
そしてボウルにサランラップをして冷蔵庫に仕舞った。
それから一時間経った頃、ガラッと家庭科室のドアが開いた。
「あれ、織田さん?」
「幸村さん…」
「どうかしたの?こんな時間まで」
不思議そうに首を傾げながら幸村は家庭科室に入って来る。
気づけば外は暗くなっている。
「市はお菓子を作りに…」
「お菓子?」
「ええ…今は生地を寝かせている途中だからまだ出来ないけど………」
「へえ。よかったら、俺も待ってていいかな」
幸村はニコリと笑むと側にあった椅子に座る。
「織田さんと二人で話すのは久しぶりだね」
「そうかしら……?」
「そうだよ。最近は赤也達と一緒にいるからね、久々に独占出来て嬉しいよ」
幸村の言葉に市はそういえばと目を瞬かせる。
「そうね…最近は赤也や仁王さん、ジャッカルに丸井さん…柳さんに時折真田さん……沢山の人とお話ししているわ………」
「だろう?何か新鮮で嬉しいんだ」
ふふ、と綺麗に笑う幸村。
「そういえば最近どうかな、何か大変なこととかない?」
「大変なこと……?」
心当たりがないのか首を傾げ聞き返す市に杞憂だったかと思いながら幸村は言葉を紡ぐ。
「ないなら良いんだ。……あ、ところで何を作ってるんだい?」
「抹茶フィナンシェよ…」
「抹茶かあ。弦一郎や蓮二が喜びそうだね」
そんな会話をしているとタイマーが鳴り市は冷蔵庫からボウルを取り出して生地を型に入れていく。
「手際良いんだね。…俺も手伝うよ」
「包丁でなければちゃんと使えるわ………」
市は壊滅的に包丁捌きがなっておらず、常に腕はふるふると震えていて見ていて危なっかしい。
そんなことは全く知らない幸村は「そんなことないと思うよ」なんて言って笑う。
「じゃあ俺も型に生地入れてくね」
二つのスプーンを手に取ると幸村はそれらを上手く活用して生地を型に入れていく。
全ての生地を型に入れ終わった後、市は型が乗ったトレーの両側を持ち空気を抜く為にバン!と叩き付ける。
「あとは焼くだけね……」
オーブンにトレーごと入れて市は加熱を始めた。
「お疲れ様。焼き上がるまでは俺と話していようよ」
幸村からの提案に頷き、市はそっと幸村の隣の椅子に腰掛けた。

───
悠弥様リクエスト『緋花主で立海(幸村か仁王か丸井か赤也)とお菓子作り』でした。
最初はブン太とのお話にしようかと思ったんですが幸村様がでしゃばりました。
それと、コメントありがとうございます。今更この場で言うのもあれですが…←
コメント大歓迎です、またコメントしていただければ幸いです。
悠弥様のみお持ち帰り可能です。


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