「い、嫌や……!そんなん着たないっ」
「そう言わずに着てみなよ」
「やって、うちそんなん着たことないねん」
「大丈夫、似合ってるから」
「うー……」
名前の逃げ回る音と捕まえようと声を出す音が部屋から響く。
「ほら、十分可愛いじゃないか。化粧は…うん、仁王頼めるかな」
「任せときんしゃい」
「うームズムズするで」
「動いたら大変なことになるぜよ」
釘をしっかり刺して化粧を施し、髪型を作ると仁王は満足気に名前を見る。
「……これでどうじゃ、不二」
「うん、完璧だよ。とりあえずホールにでも行こうか」
名前の手を取ると不二は人がいるであろうホールに名前を連れて行く。
「…あれ、誰もいないみたいだね。名前は此処で待機だよ」
悪戯っぽく笑うと不二は名前を置いてホールを出て行った。
「うち、こないなフワフワな服初めてなんに」
そっとワンピースの裾を掴みながら名前は呟いた。
現在の名前の格好は所謂ゴスロリというものである。
全体的に黒いワンピースに赤でワンピースに彩りを付けており白のレースを控えめに使い、赤い髪の毛に映えるように白い薔薇が付いたカチューシャ。
余りふんわりとした感じにならないようにパニエは控えめなものを履いていて、黒のハイソックスに赤のレース、靴は低めのヒールで赤い薔薇がワンポイントで付いている黒いものだ。
そしていつもそのままにしている髪型も綺麗な縦ロール(一部エクステ使用)にされている。
化粧も肌が白く見えて立体感を持たせるように下地を作り真っ赤な口紅に目元を強調させるかのようにクリムゾンレッドのマスカラを使っている。
いつもとは全く違う格好に戸惑うように名前はくるりと回ると落ち着かなさそうに辺りを見回した。
「金ちゃんに見られたらびっくりされそうや…」
動きにくい、と落ち込み名前は置いてある豪勢なソファに座る。
暫くするとドアの向こうから声がし始め、名前はゆっくりとドアの方を見つめる。
「それで、練習の件なんだけ……ど」
ドアを開け入って来た幸村は名前の姿を見て固まった。
「アーン、何やってやがる。俺様が入れねえだろうが」
「……あ、ああ。ごめん跡部」
珍しく動揺気味な幸村が部屋の中に入り、跡部、手塚、白石の順に部屋へと入って来る。
「…あれ、もしかして名前ちゃんか?」
最後に入って来た白石が名前を見つめて言う。
「せやで、白石!」
「これは見事に化けたな…なあ、手塚。………手塚?」
跡部が感嘆の声を上げて手塚に声を掛ける。
しかし手塚は名前を見つめたまま動こうとしない。
「…どないしたん、手塚?」
動かない手塚に名前が近寄ると、手塚は名前の頭を無言で撫で始めた。
「あ、狡い手塚」
幸村の言葉に手塚はハッとしたように手を離した。
「…すまない、無意識のうちに撫でてしまっていた」
手塚の言葉に名前は首を傾げながら「ええで!」と答えている。
「うーん、にしてもごっつう絶頂やな」
うんうん、と納得したように呟く白石に跡部が視線を向ける。
「確かにな、化粧と服を変えただけで此処まで変わるとは俺も思わなかったぜ」
「…んんーっ絶頂!」
「白石、変な目で名前を見たら五感奪うから」
「見とらんから平気やで」
「なあなあ幸村ー、うち似合うとるん?」
「うん、よく似合ってるよ」
いつもと違い女の子らしい格好の名前が幸村に抱き着きながら尋ねると幸村は抱き留めながら答える。
「ハッ、馬子にも衣装だな」
「まご?いしょー?」
跡部の言葉の意味がよく分からずに名前は首を傾げる。
「跡部クン、褒めるん下手やな。無駄多いで?」
「別に褒めたつもりはねえよ」
跡部の褒め方にツッコミを入れる白石。
そんな白石に跡部は当たり前だろといった顔で返した。
「そうか?まあええんやけど。…似合っとるな、名前ちゃん。金ちゃんもびっくりやで」
白石の言葉に名前は目を輝かせた。
「ホンマ!?ならうち、後で金ちゃんに見せてくんで!」
「喜ぶでー金ちゃん」
笑顔の名前の頭を一撫でしながら白石は笑う。
「でもその前に名前の格好もっとちゃんと見させてよね」
「えー、でもうちの格好見ても何もないで?」
「ふふ、やだなあ。名前は女の子の服余り着ないじゃないか」
「むしろ皆無だろ」
幸村の言葉に跡部が言葉を重ねる。
「そういえばそうだな。…何故だ、遠山」
手塚も気になったのか名前を見ながら尋ねる。
「んー何でやろ。…動きにくいから?」
「ああ、確かに動くんが好きな名前ちゃんには辛いんかもしれんな」
名前の答えに納得したのか全員が頷く。
抱き留めたままの幸村が名前の髪に触れて驚いたように口を開いた。
「この髪型、凄い大変だったんじゃない?縦ロールなんて簡単に出来る訳ないし…」
「これはプロだな、俺様の眼力もそう言ってやがる」
跡部も感嘆の声を上げて名前の髪に触れる。
「幸村ー、うち動きにくい」
「あ、ごめんごめん。…さて、名前はそこにちょっと座ってよ」
豪勢な作りのソファを指差し幸村は笑う。
「おんっ」
幸村の言葉に素直に頷き名前がソファに座ると白石がぼそりと呟いた。
「……何で名前ちゃんは素直に言うこと聞くんに、金ちゃんはすぐ嫌がるんやろ」
そんな白石の言葉に名前は首を傾げた。
「金ちゃんはごっつ優しいで?前、うちにタコ焼き作ってくれたんやで!」
顔を輝かせて笑う名前。
いつもの笑顔である筈なのに、化粧のせいか大人びて見える。
「…名前、その格好のとき笑顔禁止ね」
「えー何でや?」
「何でも」
「白石ー幸村がよう分からんこと言うー」
「…絶頂!とにかく俺も同意見や」
白石の顔を見たが幸村と同意見だと言われると名前は面白くなさそうに唇を尖らせる。
「手塚と跡部もおんなじなんか?」
「そうだな」
「…まあ、な」
手塚と跡部の言葉に名前は「二人もなんか!?」とショックを受けたように呆然とした。
「何で駄目なん?なーなー、何でやー?」
よっぽど気になるのかくいくいと幸村のジャージの袖口を引っ張る。
「…名前、つまりこういうことだよ」
ちゅっ。
軽いリップ音。
ピキリと固まる空気と状況を理解していない名前を余所に楽しげに幸村は笑う。
「な、何してんのや幸村クン…!」
「え?何って…額にキス?あ、弦一郎風に言うと接吻ね」
「そんなことはどうでもええんや、何で名前ちゃんにキスしてんねん」
白石の言葉を受け流す幸村。
「幸村は何でキスしたん?」
「お前…分かってねえのか。あれは挨拶だ、外国式の」
「跡部、それは無理があると思うが」
「煩え。こうでも言っとかなきゃ面倒になんだろ」
「そう、だな」
複雑そうな顔になった手塚を不思議そうに見つめる名前。
「…なかなか、面白い図だと思わない?仁王」
「あー、まあ面白いんやけど。不二が持っちょるカメラは……」
「ああ、これ?4人の写真撮っとこうかと思ってね」
「お前さんも大概詐欺師じゃのう」
「ありがとう」
「や、褒めとらんし」

───
ひじりん様リクエスト『金ちゃん姉で幸村、跡部、手塚、白石にゴスロリで愛でられる』でした。
ゴスロリ、初めて詳しく意味を知りました。
誰か着てくれ。
そして愛でてる、んですかね……?
ひじりん様のみお持ち帰り可能です。


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