「…?」
「え、織田先輩?」
切原が市の家に遊びに行ったら何だか厄介なことが起きていた。
何故か市の家に小さな市にそっくりな四、五歳くらいの女の子がいたからだ。
「え、えええ!?」
「!? ご、めんなさい…」
驚きに叫び声を上げた切原を見てびくりと肩を震わせると小さな声で謝ってくる女の子。
「や、謝んなくていいから!織田先輩、あー…市先輩いるか?」
「……?市は、市よ…」
「え、いやだから…」
不思議そうな顔をして言う女の子に切原は困った顔をした。
「…おにいさんは、だあれ?」
「切原、赤也だけど…」
「きりはらさん、ね…市はこのおうちには市しかいないの………」
「へ、あー…そうなのか」
よく分からないもののこのままじゃ拉致があかないと切原は頷き、出直そうと後ろを振り向くと。
「あ、何でこんなとこにいんだよ赤也」
「げ、丸井先輩」
「げ、だとはいい度胸だよなー。先輩に向かって」
ぷくー、とガムを膨らませながら丸井は言う。
「ま、いいか。んで何やってんだよ」
「…織田先輩に会いにっスけど」
「へえ、織田にねえ。此処住んでたのかよ。…で、織田は?」
「何か、いないようないるような感じっス」
「はあ?訳分かんねえだろぃ。もっとちゃんと説明しろよ」
いらついた様子で言う丸井に切原は悩む。
「…きりはらさん、そのひとだあれ?」
小さめな声が掛かり、切原は振り向く。
「あ、織田先輩(に似た女の子)?…その、俺の先輩だけど」
「へえ、織田随分ちっさくなったな。よっと…ん、飯ちゃんと食ってんのかよ?」
切原の後ろを覗き込み女の子に気がつくと手慣れた様子で抱き上げる丸井。
「…って、織田先輩なんスか本当に!?」
「いやだってこんな雰囲気持ってるやつ他にいねえだろぃ」
「確かにそうっスけど…普通小さくなるもんスか?」
「お前自分が幽体離脱したことあんの忘れんなよ」
「……っス」
「よっし、織田。何か食いたいモンあるか?天才的に作ってやるよ」
渋々といった様子で納得した切原を余所に抱き上げたままの市に声を掛ける丸井。
「…何か小さい子には甘くないっスか?」
「うっせ、これでも下に二人兄弟いんだよ」
「ああ、あの弟さんっスか。丸井先輩と違って優しい」
「……お前さ、いい加減にしねえと真田にあることないこと言ってやんぞ?」
「すんません」
「おし。んで、織田。何がいい?」
「ぜりー、がいいわ……」
「ゼリーか。…赤也、ちょっとそこのスーパーまで行くぜ」
切原に声を掛けると丸井は市を抱き上げたままでスーパーへと歩き始める。
「俺もっスか!?」
「は?当たり前だろぃ。織田のこと俺、だっこしてやんねえといけねえし」
「じゃあ俺が織田先輩をだっこしたいっス」
「普通に落としそうだから駄目」
「…丸井先輩のケチ」
「誰がケチだよ。…この時間だと作って食べさせてやれるか微妙だし、ケーキ屋のでも行って食べっかな」
「市、けーきやさんはじめて………」
「だよな、…とびっきり美味え店連れてってやるぜ」
「ありがとう、…まるいさん」
「ん、」
市がへにゃり、と表情を緩めてお礼を言う。
いつも見せる笑顔と違い口元だけでなく、目元も緩ませていて新鮮さと同時に嬉しさを感じた丸井は市にニッと笑い掛けると切原にその笑顔が見えないようにさりげなく市を隠した。
「丸井先輩何で織田先輩のこと隠すんスか!」
「あー?うっせー、赤也に怯えねえように決まってんだろぃ」
丸井の言葉に切原は面白くなさそうにそっぽを向いた。
「丸井先輩の方がよっぽど怖いのに」
「何か言ったかよ、赤也」
「別に何も言ってないっス」
「………織田、赤也のこと置いて行ってケーキ食うぞ」
「へ、ちょ…丸井先輩!?」
「はやいわ、かぜになったみたい……」
「おー、天才的な走りだろぃ?」
切原を置いて駆け出した丸井に市はそう返す。
そうしてケーキ屋まで競走を始めたのだった。












「…やっと追いついた、てか丸井先輩と織田先輩は何処に」
「はい、織田は苺のタルトだったよな?」
「うん…まるいさん、ひとくちどうぞ………」
「お、サンキュー。んじゃ俺のブッシュ・ド・ノエルも一口やるよ」
「……何でデートみたいな雰囲気になってんスか」
「おー遅かったな、赤也。タイムは俺より5分遅れ、真田に連絡しといてやったぜジャッカルが!」
「…ジャッカル先輩いないんスけど」
「細かいこと気にすんなよぃ」
丸井はケーキを食べながら言う。
その隣で市はタルトを口に運んでいる。
「おいしい…」
「このくらいの年でフォークを上手く使ってタルト食べるのって至難の技じゃないっスか?」
「織田なんだから何でもありだろぃ」
「いやそうかもしれないっスけど…」
「きりはらさんは、たべないの………?」
「…食う」
首を傾げて問い掛ける市に負けた切原が席に着いてショートケーキを頼む。
「あ、そういえば織田先輩は何で小さくなってんスかね?」
「あー…あれじゃね?力が弱くなったとか」
「じゃあ何で記憶まで後退してんスか」
「知らねえよ。……あ、追加でミルフィーユ一つ」
「まだ食うんスか、太りますよ」
「うっせ。織田は何か食いたいモンあるか?」
耳をふさぎ聞こえないフリをしたあとまだタルトを食べていた市に尋ねる丸井。
話を振られた市は暫く考え込み、怖ず怖ずと告げた。
「…ぷりんが食べてみたいわ………」
「プリンか、じゃあプリン・ア・ラ・モード一つな」
店員に頼み丸井は水を一口飲み市を見つめる。
「……なあに?」
「あー、ちっせえなって思って?」
ワシャワシャと頭を撫で回しながら丸井は言った。
「あ、狡いっス丸井先輩!俺も織田先輩の頭撫でたいっス!」
「駄目に決まってんだろぃ」
「えーっ何でですか」
「織田が嫌だって」
「言ってないじゃないっスか!ねっ織田先輩」
「……うん?」
話を振られ、タルトを食べていた為聞いていなかった市は首を傾げた。
「聞いてなかったんじゃね?」
「…市先輩の馬鹿」
ぽむっ。
不思議な音と共に煙が辺りを覆う。
「……え」
「…赤也?」
煙が晴れると小さかった市はおらずに通常サイズの市がいた。
「えええ!?」
「うるせーよ、赤也」
「あ、すんません…じゃなくって。戻った…?」
「市が迷惑掛けたわ…」
困ったような顔で市は謝った。
「んー良いんじゃね?楽しかったし。ほら、早く食っちまえよ」
ケロッとした顔で言い放ち、丸井はケーキを指差す。
「ありがとう…」
「え、俺なんか空気?」
二人の空気にそう切原は呟いた。

───
なづな様リクエスト『緋花主が小さくなる話』でした。
何故か報われない赤也←
小さくなった理由は婆裟羅の使い過ぎでお願いします。
…うん、最初はこんな話じゃなかった筈なのにどうしてこうなった。
なづな様のみお持ち帰り可能です。


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