「…テニスボールって、もの食うんか?」
白石はそう呟いた。
物であるテニスボールが何か食べる訳がない、そう思いつつもやはり考え込んでしまう。
「…………!(白石君暇だよう!)」
ぴょんぴょんと跳びはねアピールする女の子。
相も変わらず人型のテニスボールである。
ちなみに、名前はまだない。
「あー…何かよう分からんわ。何か食べられるん?」
「……(食べたことないよ)」
ふるふると首を横に振る女の子に食べなくても平気なのかと感じながら白石は金平糖を一粒渡す。
「…………!(キラキラしてる!)」
恐る恐るといった感じで金平糖を小さく割って口に運ぶと、女の子は目をキラキラと輝かせた。
「……!………!(美味しい!美味しいよ白石君!)」
「お、美味いんやな。ならまた買って来たるわ」
人差し指で女の子の頭を撫でる白石。
女の子はそんな白石の指をパシッと掴む。
「ん、どないしたん?」
「……(白石君も食べる?)」
手の付けられていない金平糖を白石に差し出して見つめる女の子に訳が分からずに白石は首を傾げた。
「あ、もしかして嫌やった?」
「……!(違うよー!)」
白石の言葉に慌てて女の子は首を横に振った。
「え、じゃあ…もっと欲しいとかか?」
「………(違うもん)」
ぷくう、と頬を膨らますと白石の腕から肩によじ登り、白石の口元に金平糖を押し当てた。
「………、………(白石君も食べて食べてー、美味しいよ)」
「あ、おおきに」
主旨を理解した白石は少しだけ口を開いて金平糖を口にした。
「うん、美味いで」
ニコリと微笑み白石は「(どうだった?)」と見つめている女の子に言う。
「……!…………!(そうだよね!美味しいよね!)」
嬉しそうに女の子ははしゃぐと白石の肩から飛び降りて勉強机の上に着地した。
「自分、運動能力高いなあ」
「……………!(ボールだからねっ!)」
手でVサインを作る女の子。
何処か誇らしげだ。
「にしても、ホンマ不思議やな。自分、ボールなのに女の子やし」
「……………(何でかは私も知らないよー)」
「まあええんやけどな。自分といて楽しいし」
「……(ありがとう)」
白石の言葉を嬉しく感じた女の子は白石に笑いかける。
「…あ、せや。自分の名前、考えなあかんな」
「………(名前?)」
「うーん、ルー…いや何か違うな。してん…これも違う」
白石が考え始めるが、女の子は聞こえる名前に不安になってくる。
「………………(白石君…無理に考えなくても平気だよ)」
「あ、そうや。洸(こう)はどうやろか。自分、金平糖好きやし、最初の文字と最後の文字から取ったんやけど」
「……………!(洸…かっこいい名前だね!)」
凄い勢いで頷く女の子…洸に白石は「よっしゃ、じゃあ今日から自分は洸な」と告げた。
「……………!(ありがとう白石君!)」
「気に入ってくれたみたいで嬉しいで」
「クーちゃん、さっきから煩いで!」
「友香里、いきなり部屋に入らんようにな」
ガチャリとドアを開けて入って来た妹の友香里に注意する白石。
勿論さりげなく勉強机の前に立って洸を隠すことを忘れずに。
「あれ、クーちゃん…何か隠しとらん?」
「何のことや。意味分からんこと言うてないで部屋から出てき」
「…隙あり!」
バッと友香里が白石の隙を付いて勉強机を見る。
「……なんや、何でボールを隠してたん?」
「え、ボール?」
友香里の言葉に白石は首を傾げた。
「ホンマ紛らわしいから止めてやクーちゃん」
「あ、ああ…すまんな」
友香里の言葉に白石は戸惑い気味に答える。
友香里が部屋から出て行ったのを見送り、白石は勉強机の上を見る。
調度丸まっていた洸が元に戻っていた。
「洸、頭ええんやな」
「……(褒めて褒めてー)」
嬉しそうに擦り寄る洸。
そんな洸に白石は和みながら頭を撫でるのだった。

───
ゆら様リクエスト『テニスボール擬人化の続き』でした。
友香里様の登場とテニスボールの女の子、洸って名前になりました。
金平糖がお気に入りになりました。
ゆら様のみお持ち帰り可能です。


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