彼女らと介入する『レギュラー』
 

五十嵐小夜は田中銀音もまたこの世界へとやって来たトリッパーだと考えていた。
「ことある毎に邪魔してくるし…!何なのあいつ」
ぶつぶつと人気のない場所で呟く五十嵐は不気味だった。
「そもそも何で柳生の幼なじみなのよ。同じトリッパーでもつく特典が違うの?だったら私も誰かの幼なじみが良かったわよ」
そこまで呟くと沈黙して、五十嵐は顔を上げた。
バタバタと響く足音がこちらに近づいて来るのを感じたからだ。
「……っいが、らしさっ…だいじょぶで、すか…?」
姿を現したのは田中銀音だったからだ。
ああ、まただ、と五十嵐は唇を噛み締める。
「(こういうときは普通テニス部の誰かじゃないの!?)…大丈夫よ」
「よか、たです…っ」
尋常じゃない程息を切らしている銀音を見ても五十嵐は何とも思わなかった。
むしろキャラと絡む機会を尽く潰されて腹が立っていたくらいだ。
だから銀音がフラフラとよろけていても手を貸すこともせずに立ち去ろうとした。
「あ、の…っひろ、くっが呼んで…」
「え?」
切れ切れになりながら告げられた言葉に五十嵐は足を止める。
「……っ、ひろ君が探してました」
息を整えながら伝えた銀音に、五十嵐はキッと睨みつけた。
「何で教えなかったのよっ」
「ご、ごめんなさ…っ」
「五十嵐さん」
不意に聞こえた声に五十嵐は停止する。
「え、あ…柳生君?」
「ひ、ろ君…」
「大丈夫ですか、銀音。体が弱いのですから無理はしないでください」
「うん…ごめんなさい」
しゅんとしょげた様子で柳生に謝る銀音をキッと睨みつけながら五十嵐は思う。
「(何であの子ばっかり…!私は愛される筈なのに!)」
ギリギリと血が出そうな程唇を噛み締める五十嵐に柳生が声を掛けた。
「…五十嵐さん、」
「っ!な、何かな柳生君」
「あまり申し上げにくいのですが」
「(申し上げにくいってもしかして…告白とか!?私確かに柳生好きだけど全員から愛されたいし…ああっ私本当に罪な女)申し上げにくい、って…?」
ニヤリと口許が歪むのを抑えながら五十嵐は尋ねる。
「…随分と大きな独り言ですね」
「え、」
くい、と眼鏡を押し上げながら柳生は言った。
「銀音、見つけてくれてありがとう。…先に教室に行っていて」
「うん」
パタパタと小走りで掛けて行く銀音を心配そうに見送り、柳生は再び五十嵐へと向き直った。
「何で、敬語じゃないの…?」
「幼なじみに敬語を使う必要はありますか?」
「でも…(ああっ何で上手くいかないのよ!幼なじみだからって敬語じゃなくする意味あるの!?)」
「失礼ですが五十嵐さん。何故貴女がそのように言う必要があるのですか?確かに丸井君と仲良くなって、私達とも知り合いになりました。が、貴女は交友関係に口出し出来る立場なのですか?彼女でもないのにそうやって価値観を押し付けていては敵を増やしますよ」
ニコリと笑みを絶やさずに柳生は告げる。
「え、あ……」
「ああ、それから。貴女よりも銀音の方が大切ですから」
それでは失礼します、と柳生は五十嵐に背を向けて立ち去った。



















「あーあ、だから言ったのにな」
つまらなそうな様子で陰で見ていた人物は呟いた。
「人の心を動かすことは出来ないから、チャンスを作ってあげることしか出来ないよって」
そのチャンスだって相手が嫌悪感を抱いてしまったらなくなってしまうのだけど、と付け足し笑う。
「うん、やっぱり五十嵐小夜を送って正解だなー。銀音ちゃんは自分のいる場所を知らないし。流石フラグクラッシャーって感じ?」
悪態をつきながら去る五十嵐を見つめて更に深い笑みを浮かべると、その人物は立ち去った。


―――
キリリク34000リリ様リクエスト『彼女と彼女の戦争日 続編』でした。
一応補足としては最後に出て来た人が五十嵐小夜を連れて来た人です。
流石に人の心までは変えられないんです、神様だって。
いつまでも自分がやることが正しい、愛されると思って行動しているからどんどんキャラ達が離れて行く的な。
表すのが難しいですが、リリ様このような駄文でよろしければどうぞ!



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