君のわがままが聞こえたら
 

「赤也、ジャッカル…呼び出してごめんなさい……」
「構わないっスよ!むしろ織田先輩と一緒にいられるなら大歓迎っスから」
「俺も、最近はあんまり市と話せてなかったしな」
「ありがとう……」



今日は男子の夢の日、バレンタインデー。
好きな子からチョコを貰えるかドキドキしながら過ごす日である。
かくいう立海大2年エース、切原赤也も今日を楽しみにしていた。
「織田先輩、チョコくれるかな…」
切原が期待している相手は一つ年上の織田市。
以前自分が大変だったときに手助けをしてくれた恩人である。
媚びもせず、自然体で接してくれる市のことを気に入っている切原。
いつしか憧れに近い、仄かな恋心が芽生えていた。
「あれから幸村部長や仁王先輩のせいで全然話せてないし」
二人で話していると、先輩二人に妨害をされる切原。
四六時中一緒にいて、話せていたときに戻りたいと少しだけ思いつつ切原は学校への道を急ぐのだった。
「下駄箱は…っと、何だ織田先輩からのはないのかよ」
ドサドサと溢れてくるチョコを回収しながら切原は小さく呟いた。











「……結局、未だに貰えてねえし!」
放課後、今日は部活が休みな為切原は教室でダラダラと帰り支度をしていた。
「あー…つか、織田先輩今日がバレンタインって気付いてないんじゃ…」
有り得そうだと、切原は呟いた。
「って、メール?」
携帯を確認すると、市から屋上で待つというメールが届いていた。
「て、ことは……もしかしてチョコ!?」
鞄を手に掴み、切原は屋上へと駆け上がった。
既に市は来ていた。
「織田先輩っ!」
「久しぶり…赤也」
バンッとドアを開けた切原にさして驚いた様子も見せず、市は挨拶をした。
「ホントに久しぶりっスね、」
「ええ……」
「ああ、わりい。俺が最後だったか?」
ジャッカルが声を掛けながらこちらに近寄る。
「ジャッカル先輩も?」
「そうだ」
ここで、冒頭に戻る。
「二人に、今日はチョコを作って来たの……」
市は自分の鞄から少し小さめな箱を取り出し二人に差し出す。
「ありがとうございますっ!」
「サンキュー、市」
二人がチョコを受け取ると、市ははにかみながら言った。
「美味しいか分からないけど……」
「ぜってえ全部食います!」
「俺も、ちゃんと食うからな」
「うん……それじゃあ市、これから用事あるから…」
市はそう言うと、屋上から出て行った。
「織田先輩からのチョコ…!」
家に帰ってから食べようと、切原は持っていた鞄にチョコを仕舞った。
「…………ねえ、赤也。ジャッカル」
「え……幸村部長?」
切原は屋上の奥にある給水タンクの上を見た。
「二人とも、俺は織田さんからチョコ貰ってないんだよね」
降りてくる幸村が笑顔で言う。
「いくら幸村部長でもあげないっスよ!?」
「え?」
「っ……絶対にあげないっスから!」
「俺も、今回は渡せねえ…!」
ダッと屋上の扉から切原とジャッカルは逃走した。




















「ああ、仁王?今二人がそっちに逃げて行ったよ」
『ほーか、なら早う捕まえとくナリ』
「ふふっ、ありがとう。俺も追いかけるから」
ピ、と通話を終え幸村は立ち上がった。
「多分織田さん、俺達にも用意してると思うけど赤也達をからかうのも面白いよね」
それに無理言って作り立てのチョコレートケーキ食べたいって言ったし、と幸村は呟いた。
「出来上がるまで逃げきってよ、赤也。ジャッカル」
幸村はこうして優雅な足取りで歩き始めた。
二人をからかって追いかけ回す為に。
「だあああぁぁぁあっ!何で仁王先輩まで追いかけて来るんスか!」
「決まっとるじゃろ、織田のチョコを食う為じゃ」
「自分で貰ってくださいよ!」
「人が持ってるもんのが美味く見えるけえの」
「そんなもん知らないっスよ!」
ジャッカルと別れ、切原は走っていた。
「あ、真田副部長…!」
「む、どうかしたのか赤也」
「助けてください!」
バッと真田の後ろに切原は隠れた。
「のう真田。そこをどいて赤也を渡してくれんか」
「……残念だが、赤也なら先程俺の後ろに回り込んだ後ベランダを使って逃げたぞ」
「チッ逃がしたか…すまんの真田」
真田の後ろにいないのを確認した仁王は走って行った。
「赤也、何故仁王から逃げていたのだ?」
切原は隠れていた教壇の下から出て来ながら言った。
「副部長、聞いてくださいよ!さっき織田先輩からチョコ貰ったんスけど、幸村部長や仁王先輩がそのチョコを欲しがって追いかけて来るんスよ!」
「そうだったのか、それなら織田のところにいれば安全ではないのか?」
「へ、何でですか副部長」
「織田からのチョコが貰いたいのなら織田の目の前でそのようなことはしないだろう」
「……ああ、成る程!」
真田の言葉に切原は納得した。
「……しかし、仁王も精市も織田からチョコを貰っていないのか?俺はもう渡されたのだが」
「そういえばそうっスよね…まして幸村部長は同じクラスですし」
切原は今気付いたとばかりに目を瞬かせる。
「…赤也、ゲームオーバーじゃ」
その瞬間、切原の肩には仁王の手が乗っていた。
「うわっ、仁王先輩!」
「うわとは酷いのう」
ニヤリと笑う仁王に切原は固まる。
「どうして後ろから…っ!?」
「赤也が教壇に隠れとったんはお見通しじゃったんでな。ベランダから回り込んだだけナリ」
「そんなんありっスか!?」
「安心させておいて引っ掛ける…ペテンの基本ぜよ」
ピリリリと携帯が鳴り、仁王が携帯に出る。
「おう、幸村か。…ほーか、なら仕方ないの。赤也、残念やけど時間切れじゃ」
パッと手を離して仁王が言う。
「時間切れ、って……」
「織田がケーキが出来たって連絡をくれたんでな、赤也のチョコはいらん」
「ケーキ……まさか仁王先輩も幸村部長も暇つぶしで追いかけて来てただけっスか!?」
「そうやの、まあ時間切れになるまでにチョコ奪っとったらそんチョコも食おうと思っとったけどな」
サラリと言い、仁王は歩き始める。
「何だかよく分からんのだが…」
「俺も何が何だかサッパリっス」
切原と真田は顔を見合わせてそう言った。


















「ごめんね、織田さん。無理言って頼んじゃって」
「ううん…幸村さんと仁王さんこそ、許可取るの大変だったんじゃ……」
「お願い(という名の脅迫)をしたらすぐに了承してくれたから平気だよ」
「すまん、ちょっと遅れたぜよ」
「仁王さん、大丈夫…今ケーキを冷やしているとこだったから……」
仁王がゆったりとした足取りで調理室に入って来た。
市は冷蔵庫からケーキを取り出した。
「甘さ控え目のビターのケーキ……生クリームも添えるから…」
二人の目の前に市はケーキを置いて椅子に座る。
「ありがとう」
「すまんの」
二人はケーキを食べた。
「お、美味いぜよ」
「これ、中に入ってるのってアーモンド?」
「うん…嫌いだった…?」
「いや、平気だよ」
「これ、ブンちゃんにばれたら面倒やの」
「ふふっ、大丈夫だよ。ブン太なら分かってくれるだろうし」「…そうなの?」
「うん、それに織田さん他の人のもちゃんと作ってたみたいだしね」
「この短時間で……あーいやいい、何となく分かったナリ」
黒い手の存在を知っている仁王は口をつぐんだ。
「それからこれ…家に帰ってから開けてね……」
市はチョコの入った箱を渡す。
「! わざわざこっちも作っておいたんだ」
「うん…沢山出来たから……」
「俺らの我が儘で余計な負担掛けとったみたいやの。……今日は俺が送っちゃる」
「俺も着いていくよ」
食べ終わり、仁王と幸村が立ち上がった。
「織田、片付けも手伝うぜよ。その量だと時間掛かりそうやしの」
「うん、ありがとう……」
3人で片付けをして、帰った。
そんなバレンタインの放課後。

―――
バレンタインフリリク。
お持ち帰りは終了しています。



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