刑事裁判。
それは、被告人が無罪であるか有罪であるかを審議して本当に罪を犯したのか裁く場である。
〈4月21日 午前10時 地方裁判所 第三法廷〉
「んー…異議あり」
「……いやいやっ、もっと声出して言ってくださいよ!」
「え?何でなるほどさんがツッコミするのさ」
「………(やり辛い!)」
そして此処にも一人。
その法に携わり、裁く側の人間がいた。
眠そうに目を擦りながら口に加えた棒付きのアメをコロコロと転がし異議ありと覇気のない状態で唱えるその人こそ、苗字名前検事。
日本の制度では有り得ない肩書を持つ、15歳の中学生だった。

















話は二日前に遡る。
名前が通う氷帝学園中等部で殺人事件が起きた。
用務員の馬寺目過(マジメ スギル)が何者かによって殺害されたのだ。
容疑者として上がったのはその時間にアリバイがなかったという一人の生徒。
名前は宍戸亮。
男子テニス部に所属する生徒だ。
事件が起きたのは授業中。
昼休みが終わり始業のチャイムがなって10分も経っていなかった。
他の生徒達は勿論授業に参加しており、このとき授業に出ていなかったのは宍戸だけであった。
「――以上のことから、この事件の犯人は被告人だったと考えられるっス!」
証言台に立った糸鋸圭介(イトノコギリ ケイスケ)刑事の発言に、法廷がざわめく。
「静粛に!被告人、そうなのですか!」
裁判長の木槌の音が響き、宍戸に問い掛ける。
「…、確かに俺はあのとき授業に出ていなかった」
「ほら見ろっス、我々の捜査は…」
「イトノコさん、ちょっと静かに。給与査定、気になるよね」
「…ムグ」
得意気に笑う糸鋸を名前は黙らせた。
「それじゃあ弁護士さん、尋問の用意は出来てるー?」
そう言い、成歩道龍一(ナルホドウ リュウイチ)を見つめる。
「な、なるほど君!あの検事さん…」
成歩道の隣に座る和服のような不思議な格好の女の子…綾里真宵(アヤサト マヨイ)は名前を見ながら呟く。
「うん、そうだね…僕を、いや僕達を試している」
そして、尋問が始まる。
「二日前のお昼過ぎに事件は起きたっス。用務員である被害者はそのとき、中庭にある花壇の植え替えをしていたっス」
「待った!被害者が花壇の植え替えをしていたのですか?」
「そっス、何でも氷帝学園では一ヶ月毎に花が植え替えられているらしいっス。その時期にあった花…今月の花は現場写真に写っている蓮華草っスね」
「現場写真を受理します」
〈現場写真を法廷記録に記録した〉
「ほう…いやはや、蓮華草ですか。私も昔、咲き誇る蓮華草の花畑で語り合ったものです」
「(何をだよ!)」
心の中で成歩道は裁判長にツッコミを入れる。
「ちなみに先月はチューリップだったっスよ」
「チューリップ、なるほどさんに相応しい花だね!」
「(何でだよ…)」
「うーん、なるほど君のギザギザ頭を見て思い浮かんだのかな…」
審理は続いていく。
「花の植え替えをしていた被害者は後ろからガツン!と一発そこにあったシャベルで殴られたっス。そして倒れ込んだ被害者に追い撃ちを掛けるように更に二回頭を殴られたっス」
「待った!シャベル…というのは小さい…?」
「何言ってるっスかアンタ」
「何を言ってるんですか成歩道君」
「何言ってるのなるほどさんは」
「…(何で僕がおかしいみたいな口ぶりなんだ…)」
「なるほどさん、よく考えてみてよ。両手で使う大きいシャベルで殴らないと、殺す気なら小さい片手で持てるサイズのシャベルなんて使わないよ?」
興味なさ気に棒を指でいじりながら名前が言う。
「し、しかし…この証言では…」
「あー、くどいなあ。なるほどさん、だから冥姉に馬鹿呼ばわりされるんだよ」
「……グゥッ!」
成歩道は辛辣な言葉に僅かにダメージを受けた。
「とりあえずイトノコさんの証言は終わり、次は事件を目撃した証人を入廷させてくれないかな、裁判長さん」
「りょ、了解しましたぞ!それでは苗字検事、誰を入廷させるのですかな?」
「…同じ氷帝学園に勤めるベテランの用務員、多田文士(タダ アヤシ)を証人として召喚します!」












「……それでは証人、名前と職業をお願いします」
「………あ、はい。自分は多田文士。その…用務員やってます、ベテランの」
「ほほう、ベテランですか…私も裁きのベテランですぞ。何とも、親近感が湧きますな」
「親近感を覚えないでください!」
相変わらずとぼけた感じの裁判長に成歩道はツッコミを入れる。
「それじゃあ証人、証言してくれるかな。…事件を見たときのことを」
「あ、はい!その…見たときですね」
「(うう…初っ端から嫌な予感がするな…)」
「………」
冷や汗を流す成歩道を名前は無言で見つめ続ける。
「自分も、馬寺目さんと花の植え替えをしていたんです。その…中庭で。暫く作業をしていたんですが、植え替えたあとにやる肥料を持って来るのを忘れていたことに気がついて自分だけ用務室に戻ったんです。……そっそして、中庭に肥料の袋を持って戻ったら帽子を被った生徒がシャベルで馬寺目さんを殴っていたんです!間違いありません、あれは被告席にいる人でした!」
証言が終わり裁判長は考え込み、呟いた。
「ふむう…これは決定的ですな」
「はっはい、ベテランなので目も良いんです」
「(ベテランと目がいいのは関係ないだろ!)」
「これはもう、決まりじゃないかなー」
「そうですな、では判決を…」
「い、異議あり!まだ弁護側は尋問をしていません!」
名前と裁判長の間で交わされる言葉に成歩道は慌てて異議を唱える。
「あはは、なるほどさん冗談だって」
「冗談も分からないとは、最近の若い方は悲しいですね」
「……(こんなときに冗談なんか言うなよ…)」
そして、尋問が始まる。
「自分も、馬寺目さんと花の植え替えをしていたんです。その…中庭で」
「待った!貴方も、花の植え替えを?」
「え、ああ…まあ。私も用務員ですし…それに、馬寺目さんまだ赴任したばかりでしたので…」
「赴任した、ばかり…?」
「あ、はい。その、今年の3月から臨時で。だから…今回の植え替えが馬寺目さん、初めてだったんです」
「(詳しく聞いた方がいいかもしれないな…)あの、被害者は3月のいつ頃から勤め始めたんですか?」
「え?ええと…いつでしたっけ」
多田の言葉に名前が答える。
「…報告書によると、被害者が勤め始めたのは3月29日。春休み中みたいだね」
「あ、はい!思い出しました、確かあの日は花壇が荒らされていて、それを直すのを手伝ってくれたんです、馬寺目さんが」
「まだ赴任したての被害者が、花壇を…?」
「はい、馬寺目さんはガーデニングが得意なんだそうです。凄いんですよ、根が掘り返されていた花を30分も経たないうちに全て元通りにしていましたから」
「それは凄いですな。私も以前孫と一緒にがあでにんぐをしたのですが、花壇に植え替えるのに3時間は掛かりました。…ではこの感動の記念に、証言を加えてください」
「は、はい。分かりました。ええと…」
証言に多田がこのことを付け加える。
「馬寺目さんは掘り返された花達を30分で全て元通りに植え直せるんです」
「(今はまだ、此処について触れるぶきではないな…)」
「暫く作業をしていたんですが、植え替えたあとにやる肥料を持って来るのを忘れていたことに気がついて自分だけ用務室に戻ったんです」
「待った!あの…貴方と被害者では見比べたところ被害者の方がガタイが良いのですが…」
「あ、ええ…そうなんですけど。やっぱり自分の方が勤めて長いですから。氷帝って校内が凄い広いんですよ。なので、自分が取りに行った方が早かったんです」
「…氷帝は三年間通ってても迷う生徒が続出するって評判だよ。確かに入り組んではいると思うけど」
名前の補足に成歩道は僅かに疑問を覚える。
何でそんなことを知っているのか、と。
「…なるほどさん、私一応氷帝に通ってるんだよ。ほら、中学生だし」
「!(と、いうことは…彼女はこの件に関して隠していることがあるかもしれない。それも、限りなく真実に近いことが…)」


―つづく―


―――
※なるほど君のあの4で語られていた事件がいつなのか把握していないので、ズレが生じています。



第一話〜逆転のガーデニング〜
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