見つけたのは原石でした〈柳生Side〉
 

「今日もお疲れ様でした、仁王君」
「やぎゅーもお疲れ様ナリ」
部活が終わり、仁王君と帰っていた時でした。
「良いからそれ渡しな、ばーさん」
「こ、これはその……」
「アンタが持ってるより俺らが使った方がよっぽどいーべ?」
げらげらと大声で笑う不良に困り顔で縮こまるお婆さんの姿を見つけました。
「! 仁王君……」
「ああ、分かっとるよ」
二人で助けに行こうとした時でした。(仁王君は面倒臭そうでしたが……)
「なあなあ、何しとるん?」
その場の雰囲気にそぐわぬ明るい声で少年が割って入りました。
見た目は小さく、小学生くらいで赤い髪を後ろで束ねていて金に近い茶色の目をしていました。
「何だこのガキ?」
「お前の出る幕なんざないんだよ!」
大声でからかう不良達。
なんて大人気ないのかと、声を出そうとしましたが。
「あんな、婆ちゃん。うちが何とかするさかい、もう行ったって!」
「! ありがとうね、僕」
「おんっ、」
そんなやり取りをしてお婆さんは去って行きました。
「てめぇ、何逃がしてくれてるんだ!」
「まずいですよ、仁王君。早く止めに行きましょう」
「まあ待ちんしゃい、」
何かに気付いた仁王君に引き止められて、私も立ち止まりました。
「なあ兄ちゃん達、コンビニって何処にあるん?」
「はあ?何言ってるんだ、このガキ……」
「なあなあ、教えてーな」
「うぜえんだ………よっ!」
ガシッと胸倉を掴み上げ、少年を投げた不良達。
「っ危な……」
あのままでは塀に打ち付けられてしまいます…っ!
声を出して私が今度こそ足を動かそうとした時。
くるっ、だんっ!
「兄ちゃんびっくりさせんといてーなっ」
体を回転させて足で塀を蹴り、地面に足を付けた少年。
「うち、何か変なこと言ったん?」
「こいつ………っ」
首を傾げる少年に殴り掛かろうとする不良を他の不良達が抑えました。
「…まあまあ、こいつガキなんだしよ」
「此処はテニスで決着つけてやろうぜ、なあ卓郎」
「、それもそうだな……おいガキぃっ!」
「何や?」
「テニスでもしねえか?お前が勝ったらコンビニまで連れて行ってやるよ」
「ホンマか!?」
キラキラとした瞳で聞く少年に、不良達は嫌な笑みを見せながら頷きました。
「ああ、本当さ。ただし、俺らが勝った時は………」













「本当によろしかったのでしょうか、仁王君…」
「さあのう、いざとなったら止めに入れば良いことじゃろ?」
「それはまあ…そうかもしれませんが」
「お、始まるぜよ」
移動する彼らに仁王君と共に着いてきて、私達はストリートテニスコートに来ました。
初めて来るストリートテニスコートに、こんな形で来るとも思ってみませんでしたが…。
試合をする少年は念入りに準備運動をしていますが、相手の不良はニヤニヤとそれを眺めています。
「そろそろ良いか?(はっ、やっぱガキだな。準備運動なんざ念入りにしてやがる)」
「おん、いつでも良いで」
「サーブ権はそっちにやるよ。試合はワンゲームでセルフジャッジだ」
馬鹿にしたような口調で構えもせずに不良は言います。
「なあ兄ちゃん、構えんでええん?」
キョトンとした顔つきで少年が聞くと、不良は声を出して笑いました。
「っはははははは!んなもんいらねーよ、そんなことしなくたって打ち返せるしな!!」
「そうなん?やったらうち、ごっつ強いやつと戦ってるんやな!」
はしゃぐ少年にニヤニヤ笑いを深める不良。
「ほな、行っくでー!」
軽くボールを下について、少年は高くボールを上げました。
「そやっ!」
そして落ちてきたボールをその小さな体の何処に秘めているのか分からない力で打ちました。
不良は一歩も動くことも出来ず、固まっていました。
「15-0や」
にっと笑い、少年は言います。
「ふ、ふん…今のはマグレだマグレ」
「そうだそうだ、卓郎さっさとやっちまえ!」
自分に暗示をかける不良に仲間が声を掛けます。
「……柳生、あいつは…」
「ええ…」
不良は少年に勝つのは難しいでしょうね。
差がありすぎです。
「30-0! なあ兄ちゃん、本気出してーな…」
つまらなそうな顔で少年は言います。
「くっそ……あのガキが」
「40-0…マッチポイント」
ボールを高く上げて少年が打ち、ボールをラインギリギリに入れました。
「これで、わいの勝ちやでー!」
体全体で喜びを表現する少年に苦々しげに不良の一人が悪態をつきました。
「っうぜえ……」
「待てよ卓郎。ボール入ったのかよ」
「……いや、入ってなかったな!」
不良はグリグリとラインの辺りをシューズで踏みながら言いました。
ちゃんと入っていたボールでしたのに…。
「ちぇっ、入った思うたんやけどな…」
ポンポンとボールを下につきながら少年は言いました。
「ほな、次行っくでー!!」
ぎゅおっとボールが空気を切り裂きながら相手コートへと向かいました。
あんなに鋭いボール、なかなか打てるものじゃありません。
まして背丈の小さく、体が発達していない少年には大変体力を使うのではないでしょうか。
「くっ…」
不良もボールを何とか捉えたものの、ラケットが弾かれてしまいました。
「よっしゃ!兄ちゃん、約束通りコンビニ連れてってな」
「業と負けてやったんだ、この勝負は無効に決まってんだろ!?」
なんて大人気ない。
「なんでやーっ、うちが勝ったんやから!業とやないやろっ」
「うっせえよ!」
手をあげようとした不良に、仁王君がボールを投げました。
「そこら辺にしときんしゃい」
「そうですよ、見苦しい真似はやめたまえ」
「げっこいつら立海の…」
「い、行こうぜ」
分が悪いと踏んだのか、不良達は去って行きました。
「ああっコンビニはどうなるんやー!」
「まあ待て」
今にも追い掛けて行きそうな少年のリュックを掴んで、仁王君が引き止めました。
「私達で良かったらお連れしますよ」
笑顔で告げるとこちらをじっと伺う少年。
「…ホンマ?」
「ええ、ですから彼等を追い掛けるのは止めなさい」
「おん!おーきに兄ちゃんら」
「構わん、どうせ俺らも行くとこやったしの」
ぴょんぴょんと跳ねながら少年は笑いました。
「うち、遠山銀音言います。よろしゅうよろしゅう!」
「柳生比呂士です」
「仁王雅治じゃ、」
自己紹介をして、3人でコンビニに向かうと遠山君が弁当の棚に向かいます。
「んっとー…」
上の方の棚を見ようと跳ねている姿が愛くるしいといいますかなんといいますか…。
「のう、やーぎゅ。あいつ、気になっとったんやけど…」
「何ですか、仁王君」
「女かのう?」
「え…じょ、女性ですか?」
「よう分からん。ただ、何となく思っただけじゃ」
言われて遠山君を見てみますが、特に気になる点はありません。
「最初会ったイメージから男にしか見えんが…仕草、は何か動物っぽいな」
先入観というものでしょうか。
確かにあの格好に不良に投げられたのを難無く着地。
確かに、女性とは捉えにくいですよね…。
「まあ、勘じゃからあんま気にせんでええ」
「そうですか…」
「なあなあ、仁王と柳生は何買うん?」
二人で話をしていると、弁当を買った遠山君がこちらに来ました。
「俺は肉まんじゃ」
「仁王君、まさか…」
真田君から部活帰りに買い食いは禁止されているのですが。
遠山君を案内して、何も買わないのは不自然だからと理由を付けて買おうとしてますね。
「肉まんなん?うちも買う!」
「……仁王君」
「ピヨッ、まああんまし怒んなさんな」
気怠げに仁王君がレジで二つ肉まんを頼むのに溜息を吐きつつ、私は遠山君を見ました。
…やはり、女性には見えません。
いや、しかし女性でしたら大変失礼なことを考えてしまって…。
「なー、柳生。あれなんなん?」
くいくいと私の制服の裾を引っ張り聞いてくる遠山君に意識を戻すと、月刊プロテニスを指差していました。
「これですか?これはテニスの雑誌ですよ」
「そうなん?うち、初めて見たわ…」
見たことがないと言った遠山君に驚きましたが、やはり小さいですからあまり雑誌などに興味もなく、売り場をよく見たこともないのでしょう。
「よろしければ今度お見せしますよ」
と、ついつい言ってしまえば遠山君の目が輝きました。
「ええの?」
「はい、近くに住んでいるなら会えると思いますし」
「おーきに、柳生!」
「ほれ、やぎゅー」
二つ肉まんを手に仁王君が戻って来て、私に一つ渡しました。
「遠山の分は向こうに置いてあるから取ってきんしゃい」
「おん!」
パタパタとレジに向かう遠山君。
用意されていた肉まんを受け取りお金を渡していました。
「柳生、あいつどんなやつじゃった?」
「仁王君、その為に二人きりにしていたんですか?」
いつもなら自分から買いに行かないのに行ったと思ったら…。
「別にええじゃろ」
「はあ…純粋ですね、遠山君は」
「純粋、ねえ…」
「何かおかしなことを言いましたか、仁王君」
「いや何でもなかよ」
戻ってきた遠山君と一緒に外に出て、肉まんを食べながら道を歩き始めました。
「しっかし、紳士であるお前さんが食べ歩きとはのう」
「誰のせいですか」
「柳生」
「…………」
「ククッ」
笑い声を漏らす仁王君に疲れましたが、何も言わずに溜息を吐くのに留めました。
「柳生、幸せが逃げるで?」
「遠山君、」
「やからうちの幸せおすそ分けやー」
ハグー、と抱き着いてくる遠山君に何だか小動物にじゃれつかれている気分になり和みました。
「俺にはないんかのう」
「仁王はー……なんか嫌や」
「…ピヨ」
読めぬ表情で不思議な擬音を呟いた仁王君。
若干間が空いたのはショックだったからでしょうか。
「んー…仁王が友達になったらやるで」
「おや、それでは私はもう友達なんですか?」
「おん、せやで」
こくりと頷いた遠山君に、何か友達になった要素があったかと不思議に思いましたが、よく分からなかったので気にしないことにしました。
「じゃあ友達じゃ」
腕を拡げて待ち構える仁王君にいつもの喰えないキャラはどうしたのかと聞きたくなりましたが、きっと聞いてはいけないのだと自分を戒めました。
「友情のハグー!」
ぴょんと私から仁王君へと対象を変えた遠山君は、仁王君に飛び付きました。



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