妙技!
 

「帰るぞ、銀音」
「おん!」
何も知らない銀音は柳の言葉に笑顔で頷いた。
準決勝の試合が終わり、銀音達は帰路に着いた。
その中に真田の姿はなかった。
「なあなあ、柳ー。真田は?」
「少し打ってから帰ると言っていたな」
「じゃあうちも真田と打ってから帰ればよかった…」
しょぼん、と落ち込む銀音の頭を丸井が撫でた。
「まーまー。ラリーくらいなら他のやつとでも出来んだろぃ?付き合ってやるからよ……ジャッカルが」
「俺かよっ」
「冗談だっての。ちゃんと俺が付き合ってやるし」
ワシャワシャと銀音の髪を撫で回すと丸井はガムを膨らました。
「約束やで!丸井!」
「おー」
にっこりと笑う銀音に丸井は頷く。
「丸井先輩、面倒見いいっスね。……銀音限定で」
「可愛い後輩の面倒を見て何が悪いんだよ」
「…丸井先輩、俺は?」
「お前は一年の頃散々見てやっただろぃ」
ぷくう、とガムを膨らませる丸井に銀音は首を傾げる。
「切原の面倒見てたんか?」
「そうそう、一年のときからほんっと生意気でさ。入部届けを出す前から先輩達に喧嘩売って、幸村君達に負けたんだよな…それで」
「わーわーわーわーわー!ま、丸井先輩っ」
ごまかすように大声を上げた切原に丸井は不機嫌そうに睨みつけた。
「何だよ、今から赤也の武勇伝語ってやろうかと思ったのにな」
「あ、えーと…そうだ!だったらあれどうっスか!?丸井先輩のケーキバイキングの話!」
必死になって話を変えようとする切原だがその横でこっそり銀音に教えている仁王には全く気が付かない。
結局、一年の頃の切原について銀音は知ることになっていた。










「ふんっぎぃ…!」
「よっと」
「ぬぅう…っ!」
丸井と二人、ラリーを続ける銀音。
「凄い集中力だな、二人とも」
その様子を見守りながらジャッカルは呟いた。
丸井の妙技に喰らい付く銀音は強い、強いのだが何かが足りない。
足りないというより欠けてるといった方が正しいのだがそれをジャッカルは知らない。
ただ漠然と勿体ないなと思うだけだ。
「妙技・綱渡り」
「……っ!」
出鱈目な動きで追いつきコートに打ち返す銀音は、疲れた様子を見せない。
ただ楽しそうに笑うだけだ。
「おい二人とも、そろそろ時間が…」
「ん、それもそうだな。銀音ー今日はもう終わりだぜぃ」
「えー…もう終わりなんか?」
「しょうがねえだろぃ、決勝前に怪我とかしたらたまんねえ」
きっぱり言う丸井に銀音は渋々頷いた。
「せやったらしゃあないけど………。うち、もう少し打ってから帰る!」
宣言して銀音はラケットとボールを一つ持って壁の方に移動して壁打ちを始めた。
「本当に元気だな、あいつ」
ジャッカルの呆れたような口ぶりに丸井も同意する。
「ま、今日は今のラリーくらいしかやってないし。つか銀音、最近大会が続いてっから殆ど試合とかラリーやれてないんじゃね?」
尤もなことを言うと丸井はラケット片手にジャッカルと着替えにコートから出て行った。
「っ…はあ、はあ」
若干息切れして袖で汗を拭う。
「…うちも、試合したい」
少し寂しげに銀音は呟いた。
「それはもう少し辛抱だな」
いつからいたのか柳がそう言った。
「やなぎー…」
「ほら、帰るぞ。今日は母さんが銀音の分も夕飯を用意すると言っていたからな」
ポンと頭に手を乗せ柳は笑った。
「おん、」
「……決勝が終わり一段落着いたら試合をしよう」
「! ホンマ!?」
「ああ、本当だ」
「約束やで、柳!」
嬉しそうに銀音は笑った。



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