立海大家族3
 

「……………」
「……うー」
弦一郎は目の前にいる銀音と見つめ合っていた。
本日道場に行く際に精市に笑顔で銀音を任された弦一郎だったが如何せん、ちびっこに泣かれやすい体質であるが故どう接するべきか悩んでいた。
「銀音」
「!」
とりあえず呼び掛けてみるとキョトンとした顔で見てくる銀音と目線を合わせる為に弦一郎は銀音を抱き上げた。
「あうーっ」
急に持ち上げられ、その浮遊感に楽しくなったのか銀音はきゃっきゃっとはしゃぎはじめた。
「げんぱぱー!」
にっこり笑いながら名前を呼ぶ銀音に若干驚きつつも弦一郎はどのタイミングで銀音を下ろして良いのか分からずに固まっていた。
「父さん、先程母さんから銀音とこちらにいると聞いたのだが」
ひょっこりと顔を出したのは蓮二だった。
蓮二の切り揃えられたおかっぱが揺れ、二人をその糸目で見ると状況を判断したのか道場の中に足を踏み入れた。
「…父さん、銀音を下ろすタイミングが掴めなくなったのか?」
弦一郎の腕から銀音を抱き上げると銀音は蓮二の髪が気になるのか触っている。
「こら、引っ張るな。…父さん、稽古の方は良いのか?」
「む、そうであったな」
髪を引っ張ろうとする銀音を窘めつつ蓮二が稽古を促すと、弦一郎は思い出したのか木刀を構えて素振りを始めた。
「銀音、端に寄って父さんの稽古を見ようか」
「おん!」
元気良く返事をした銀音に微笑みを返して蓮二は道場の隅に正座をして座り、自分の膝の上に銀音を座らせた。
鋭く空気を切る音がしていて、道場内に緊迫した空気が流れる。
銀音もこのときばかりは騒ぐこともせずに静かに素振りを見つめていた。
「ふむ…すまないが蓮二、相手をしてもらって構わないか?」
素振りを終え、弦一郎は一息吐くと蓮二と銀音の方を見てそう言った。
「ああ、構わない。…その間銀音は暇になってしまうが」
「そ、そうだな…」
弦一郎の頭の中を幸村の言葉が過ぎった。
『まさか銀音をほっといてなおかつ怪我とかさせないよね』
弦一郎は冷や汗を流すが、蓮二は理由が分かっているのか敢えて何も言わなかった。
「うちみてりゅ!」
キラキラした顔でそう言った銀音に二人は驚いたように銀音を見つめた。
「良いのか?」
「おん!」
確認するように尋ねた弦一郎にしっかりと頷いた銀音は道場の端にちょこん、と座った。
「父さん、相手とは言ったが居合か、それとも普通の手合わせか?」
「今日は手合わせのみで頼む」
「分かった」
手合わせを始めた二人をワクワクした表情で銀音は眺め続けた。
暫く打ち合っていた二人が時間を確認して手合わせを止めると銀音が手を叩いた。
「うちもー!」
「…銀音にはまだ早いだろう」
「そうだな、父さんの言う通りだ。銀音はもっと大きくなったらな」
頭を撫でられ、銀音はキョトンとしながら頷いた。
「さて、銀音。父さんの稽古も終わったから散歩にでも行こうか」
「さんぽ?」
「ああ。…父さん、母さんには言っておいたから心配はいらない」
「うむ、怪我をしないようにな」
弦一郎に見送られ、銀音と蓮二は近くの公園へと足を運んでいった。



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