幸村と皆やで!
 

「ゆーきーむーらー!」
「病院では静かにね、銀音」
「おん、分かったで!」
バタバタと騒がしく病室に入って来た銀音に幸村は注意した。
「今日は何するんか?」
「今日は、部活での皆のことを聞こうと思ってね。調度県大会も終わったから来てもらったんだ」
「部活でのこと?て何か聞きたいん?」
銀音はよく分かっていない顔で聞いた。
「ふふっ、そうだな…仁王とかがサボったりしてないかとか、丸井がお菓子を食べてたとかそんなこと」
「せやったらこんなことがあったで!」
銀音は楽しそうに今まであった出来事を話す。
「んでな、柳が切原に怒っとでた」
「へえ、そんなことが…」
幸村は時折考え込むような仕種をしながら銀音の話を聞いていた。
「……幸村、あんま楽しないん?」
「え、ああ…ごめんね。少しぼーっとしてたみたいだ」
「じゃあ何で淋しそうなんや?」
「寂しそう?俺が、かい?」
「おん、やって全然笑ってへんもん」
幸村の顔をジッと眺めながら銀音が言う。
「え、嘘」
「嘘やないで、顔は笑っとるけど笑ってへんもん」
分かりにくい表現に、幸村は小さく首を傾げる。
「ホンマは、嫌なん?皆が部活しとるときのこと聞くん」
「……銀音、鋭いってよく言われるでしょ」
「? 尖ってないで」
的外れな答えを返す銀音に苦笑混じりに幸村は口を開いた。
「そうじゃなくて。俺が笑ってないって言っただろ?」
「せやで、幸村の目が寂しそうなんやもん」
銀音は幸村の目を見てそう言った。
「そんなこと、分かるんだ」
「ちっさい頃から山行って遊んどったから」
「ふふっ、面白いね」
「そうなんか?」
「普通だったら山で遊んでたからって、そんなこと分からない筈だからね」
「うー…よう分からん」
銀音は混乱した顔で言った。
「…別に、皆が部活しているのを聞くのが嫌な訳じゃないよ」
幸村は暫く無言でいたあと、そう話を切り出した。
「? せやったら何でなん?」
「置いて、行かれてる気がしてね」
「皆にか?」
「そう、皆に。俺は此処でただ病室の外を眺めることしか出来ないのに、皆はドンドン先に進んで行く」
「…………、」
銀音は口を閉ざした。
いつもなら元気よく話す銀音も、このときばかりは何も言わなかった。
「不安になったんだと思う。全国大会までに治らなかったら、俺は何の為に3年間勝ち続けて来たのか。部長らしいことも出来ずにただ此処で応援することしか出来ない。それが悔しくてならない」
「……幸村、は治るんやろ?」
「…分からない、よ」
「嘘や」
幸村が僅かに逸らした視線に銀音は言った。
「難しいことはうち、全く分からんよ。いつも光が分からんことは教えてくれとったし、」
「銀音?」
「やけど、今のは分かる。幸村、ホンマは知っとるやろ。自分が治るかどうか」
「…………、治ったとしてももうテニスをするのは無理だって」
カタン。
廊下から小さな音が響いた。
幸村はそれに気付かず、振り絞るように声を出した。
「銀音は、俺の病気のこと知らなかったよね。ギラン・バレー症候群に酷似した免疫系の難病、段々と体が動かなくなっていく病気」
「体が動かん病気?」
「そう、俺にはテニスしかない。本当に、ショックだったよ」
幸村の話し声だけが響く。
銀音は静かに幸村の瞳を見て話しを聞く。
幸村の瞳は諦めの色を写していた。
「それでも手術して、リハビリをすれば復帰出来るって信じて俺は思っていた。あのとき、医者が話していた会話を聞くまでは……」
幸村は思い出したのか、目を閉じた。
「……とにかく、俺は手術をしてもテニスが出来ないと知った」
「ゆき、」
「このっ大馬鹿者が!」
銀音の声を遮り、ガラッとドアを開けて大声を上げたのは真田だった。
「! 弦一郎、どうして此処に…」
「済まないな、精市。俺達もいる」
「皆まで…」
真田のあとに続くように他のレギュラー達も病室に入って来た。
「すみません、聞くつもりはなかったのですが…」
断りを入れつつ柳生は仁王を見遣った。
仁王はそれに知らぬフリをしつつ、切原をいじっている。
「精市、どういうことだ」
真田は幸村に食ってかかる。
「……聞いてた通りだよ。俺は手術に成功してもテニスが出来る確率はないに等しい」
「零ではないのだろう、ならば気合いで何とかせんか!」
真田が声を荒げた。
他のレギュラー達はその様子を無言で見つめる。
「……無理だよ。確かに、可能性は零ではないかもしれない。でも…」
「精市、歯を食いしばれ!」
「………っ!」
その言葉に被せるように真田が言い、幸村の頬を張った。
「何を腑抜けたことを吐かす!お前は王者立海の部長だろう!お前が弱気でいては部員の士気にも関わる!それに…」
「弦一郎……」
真田の言葉に幸村が唖然とした顔で呟いた。
「俺達は無敗でお前を待つと、あの日誓った筈だ!」
「あ………」
「だから精市、絶対に戻って来い」
「……そうだね、ごめん弦一郎。それに…」
ちらりと目を他のレギュラーにも向ける。
「他の皆も、すまなかった」
「いや、構わない」
「幸村君も色々ごっちゃだったんだろぃ」
「そうだな、それに俺達の言いたかったことは真田が言ってくれたしな」
「プリッ」
「いつまでも待ってますよ、幸村君」
「戻って来たら俺と試合してくださいよ、幸村部長!」
「、ありがとう」
幸村は笑った。
「銀音、本当は気づいてただろう」
柳がこっそりと銀音に話し掛けた。
「皆が来とったんは知ってたで?やって、匂いしとったし」
「……匂い、か」
「おん、柳からは和風な感じで丸井から甘い匂いで……」
「いや、いい。何となく分かった」
きっぱり言って、柳は他のメンバーを見つめた。
「……早く幸村が戻ってくるとええな」
銀音の楽しげな声が賑やかな病室に響いた。



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