県大会、丸井の試合見たで
 

県大会、初日。
シード校である立海は第一試合を見ていた。
「今回も警戒すべきところはないみたいだな」
「ああ、次当たるところも無名校だ。パワーリストを外す必要も全くなかろう」
真田と柳が話す隣で、丸井とジャッカルが精神統一を。
「やっぱ試合前はケーキに限るぜぃ」
「………」
丸井はケーキを食べ、ジャッカルは頭を剃っている。
「のう、柳生。次の試合じゃが……」
「ええ、それならこれはどうでしょう」
仁王と柳生は試合の戦術について話す。
「……うち、ちょお他んとこ見てくるで!」
タッと身を翻して、銀音は他の場所に移動した。
銀音は少し離れたところに着くとつまらなそうに呟いた。
「試合出来んの、つまらんなあ」
近くにある壁打ちの出来るコートを見て銀音は目を輝かせた。
「少しやるくらいなら怒られんよな?」
キョロキョロと辺りを見回し、人がいないのを確認して銀音はコートに入った。
「とりゃっ!」
パコン、とボールを打ち壁打ちをしている銀音に、声が掛かった。
「ん、あれー…此処使ってたんだー」
「兄ちゃん、誰や?」
「あー俺ー?俺は芥川慈郎だCー」
眠そうに欠伸をした金髪パーマ、芥川慈郎はそう言った。
「あくたがわじろやな」
「違うよー、慈郎だCー」
「じろー?」
「そうだねー」
のんびりと言葉を交わす二人。
「あ、うちは遠山銀音言います。よろしゅう!」
「遠山君かあーよろしくねー」
「おん!」
「あー遠山君何か忍足みたいだCー」
「おしたり、て?」
「えっとねー丸眼鏡で足フェチなんだよー」
「うち、眼鏡掛けとらんよ?」
「喋り方がねー一緒だよー」
芥川の言葉に銀音はへー、と声を上げた。
「大阪出身なん?」
「そういえばそうだったかもねー」
「おーい、銀音!もう試合が始まるぜぃ……ってジロ君?」
「あーっ丸井君だCー!」
丸井がこちらに気付いて近寄って来ると、芥川のテンションが急激に上がった。
「マジマジ、これから試合!?」
「おーそうだぜ」
「応援してるから!頑張って丸井君!」
「俺の妙技楽しんでけよぃ?」
「うん!すっげー楽しみにしてるCー!」
芥川は上がりきったテンションのまま、走って行った。
「……さてと、俺らも戻るぜぃ?」
「せやな!早う戻らんと真田に怒られるで」
「げっ…それは勘弁して欲しいぜ」
二人は慌てた感じに集合場所に向かった。

















「次当たる学校だが、対策としては……」
柳の言葉を聞き、レギュラー全員がアップをする。
「銀音もレギュラーのいる近くで応援をしていろ。いいな?」
「おん!」
「丸井君マジマジ頑張ってー!」
「氷帝の芥川か、わざわざ丸井のことを見に来たようだな」
真田が芥川の声にそう呟いた。
「常連校である以上、関東で会うのにの」
「仁王君、あまりそのようなことを大声で言うのはよろしくないですよ」
仁王の周りに聞こえるように言った言葉に、柳生が注意する。
「しっかり応援は覚えたのか、銀音?」
「当たり前やろジャッカル!じょーしょー立海大!やろ?」
「じょーしょーじゃなくて常勝だ」
ジャッカルにしっかり教わり、銀音は試合を見る。
「頑張りやー丸井ージャッカルー!」
「あったりまえだろぃ!」
「銀音こそ、身を乗り出し過ぎてそこから落ちるなよ」
二人が返事をしてコートに入って行く。
「やっべー、危うく見逃すとこだったぜ…」
これから試合が始まるといったときに、切原がこちらに走って来た。
「赤也、」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ真田副部長!まだ試合は始まってないじゃないっスか!」
切原が慌てた様子で弁明する。
「……ちなみに、集合時間は10分前だ」
「柳先輩まで!」
「試合が終わったら平手打ちの確率は99%」
「あとの1%は何スか!?」
「精市に説教される確率だ」
試合が始まった横でそんな会話がされる。
「畜生、ナメやがって…!」
「まーまー落ち着けって。俺の天才的妙技でも見て頭冷やせよぃ」
相手の言葉に軽い口ぶりで丸井が言う。
「最も……全部見れねえとは思うけどよ」
ボールをネットに当てて、丸井は笑う。
「妙技・綱渡り」
ツー、とネットの上を転がって行くボール。
相手の手が届かない反対側へと行き、コートに落ちた。
「どう、天才的ぃ?」
「流石丸井先輩ー!今日も妙技が冴え渡ってるぜ!」
「うんうん、丸井君天才的だCー!」
相手校が静まり返る中、立海の応援と芥川の声が響いていた。
「更に妙技の精度が上がってるっスね、丸井先輩」
「ああ、それにジャッカルのフォローも更に早いものになっている」
切原の言葉に、真田が付け加える。
「常勝立海大!常勝立海大!」
応援の声が響く中、相手は完全に萎縮していた。
「やっぱり俺らじゃ王者立海には敵わねえんだ……」
「そうだよな、運が悪かったんだよ」
そんな声がちらほら出始める。
「………、」
「銀音君、どうかしました…」
「何言うてんねん!」
柳生の声を遮るように、銀音は相手に向かって声を張り上げた。
「何で諦めてんのや!勝てんかもしれんからって自分らは手ぇ抜くんか!勝てんでも、一矢報いたるて考えんかい!」
「銀音君…」
その場にいる全員が戸惑う。
相手は何で敵である自分達にそんな言葉を掛けるのか分からずに、立海はそんなに怒る銀音を見たことがなかったからだ。
「そんなんも分からんのか!そうやって諦めるんが一番みっともないわ!」
「! そうだよな、俺達…やる前から王者立海には敵わないからって、諦めて……」
その一言に、相手校はざわつき始める。
「銀音、何故相手にあのようなことを言った」
柳のそんな言葉に、銀音は答えた。
「やって、試合諦めたらテニスおもろくないやん」
「面白くない…?」
「どんなやつでも、絶対に喰らいつくんがテニスやろ?諦めんかったら逆転やって出来るかもしれん」
銀音は純粋にそうだと信じて告げた。
「……やはり、お前は興味深いな銀音」
柳は一言銀音に告げた。
「ホンマは、光に聞いたんやけどな」
「光? というと……」
「うちの友達や、強いんやで!」
「そうか、」
丸井の試合が続く中、二人はそう話し続けた。





















「見てたか銀音」
「……見てたで」
「嘘だろ絶対」
丸井に聞かれて、銀音は目を泳がせながら答えた。
あの後銀音はついつい柳との話に夢中になって試合を全く見ていなかった。(柳はちゃんとノートに試合についてまとめていた)
「ま、いーけどよ…どうせまだ妙技見せるチャンスはあるし」
プクーとガムを膨らませながら丸井は呟いた。
「丸井くーん!すっげーかっこよかったCー!流石俺の憧れの人!」
ダーッと芥川が駆けて来て笑う。
「ジロー君、サンキューな」
手を挙げて丸井がお礼を言った。
「銀音、少し良いか?」
「おん、平気やで」
呼ばれた銀音は真田に近寄る。
「真田、何や?」
「いや…敵に塩を送るなとは言わん。しかし、勝ち目のないと分かっているあやつらを奮い立たせてどうするのだ」
「勝ち目がないからって、諦めとったら勝てんもん」
「何?」
至極当たり前だといった顔で銀音は言った。
「真田はごっつ強いやつと戦うとき諦めるんか?」
「そんな訳ないだろう、勝ちに行く為に全力を尽くす」
「それと同じやんか」
銀音はそう言うと、肩にしょったリュックを掛け直した。
「……これも、光が教えてくれたんやけどな」
少しだけ寂しそうにそう呟き、銀音は仁王と柳生の元へ駆けて行った。



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