幸村と初対面やで!
 

「お見舞い?」
「ああ、部長がお前に会いたいと言っていてな」
部活が始まる少し前の時間。
銀音は柳と話していた。
「部長って何や?」
そもそも部長について理解をしていなかった銀音に、説明をして本題を話すことが出来たのは部活が終わってからだった……。















翌日。
部活が終わり病院にやって来た立海レギュラー陣と銀音。
銀音は周りをきょろきょろと見渡しといた。
「銀音君、どうしたのですか?」
そんな様子に柳生が話し掛けると、銀音はワクワクした顔で言った。
「うち病院初めてなんや!」
「そうなんですか?」
「せや、風邪引いたこともないし怪我もすぐ治るから」
「それでも普通は行くと思うぜよ」
「えー、やって金ちゃんも行ったことないで?」
「お前の家どうなってんだよ」
切原の言葉に銀音は首を傾げる。
「お前達、病院で騒ぐでない!」
「弦一郎、一番声が大きいのはお前だ」
「む……」
柳に窘められ真田は黙った。
「とにかく早く幸村のところに行こうぜ。待ってるだろうしよ」
「ジャッカルの癖に良いこと言うじゃん」
「ジャッカルの癖には余計だ、ブン太」
声を掛けたジャッカルに丸井が茶化す。
そんな丸井にジャッカルは溜息をつきながら反論した。
「それもそうだな。弦一郎、俺は先に行って精市に話をしておこう」
「うむ、頼んだ。蓮二」
柳が先に歩いて行く。
「真田、真田!幸村ってどんなやつや?」
「幸村か?あいつは誰よりもテニスが強く、俺達をまとめあげ、そして負けない強い心を持っている」
「ごっつ強いん?」
「ああ、そうだ」
銀音はそれを聞いて目を輝かせた。
「凄いんやな、幸村って。うち、戦ってみたい」
「今はまだ出来ないが…あいつは必ずコートに戻って来る。そのときまで待て」
「おん!」
元気よく返事をして、銀音は真田を見上げた。


















「初めまして、遠山君。君の話は真田や柳…皆から聞いているよ」
優しげな微笑みを浮かべて、幸村が銀音に言った。
「初めまして、うち遠山銀音言います!よろしゅうっ」
幸村のベッドの近くに来て、銀音が挨拶をした。
「俺は立海大附属中、男子テニス部の部長。幸村精市だよ」
「幸村やな!」
そんな会話を聞きながら、他のレギュラー達は端に寄り二人を見つめる。
「あ、そうだ!幸村部長、見舞いにケーキ買って来ました」
「ありがとう、赤也。じゃあ皆で食べようか。……でもその前に」
「? 何だ、幸村」
「少し遠山君と二人っきりにさせてくれないかな?」
「それは構わないが…」
「ありがとう、じゃあ皆は廊下で待ってて。……盗み聞きしたらどうなるか分かるよね?」
満面の笑みを浮かべて言った幸村に直ぐさまレギュラー達は頷き廊下に出て行った。
「何で皆出て行ったん?」
「君と二人で話がしたかったからね。聞かれたら君も困るから良いでしょ?」
「聞かれたら困ることって何や?」
銀音がよく分かっていない顔で聞くと、幸村の醸し出す空気がピンと張り詰めたものになる。
「遠山君…いや、遠山さん。君は女の子なのに何故男子テニス部に入部したんだ?」
「金ちゃんと試合したかったからや!」
元気よく答えた銀音に幸村は一瞬だけえ、と表情がきょとんとしたものに変わった。
「…それだけ?」
「おんっ。あ、でも他の強いやつとも戦いたいで!」
それを聞くと幸村は吹き出した。
「あはははっ、まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったよ」
「そうなん?」
「そうだよ、だからって男子テニス部に入るなんて聞いたことないしね」
そんな幸村の様子に銀音はムッとした表情で言った。
「聞いたことないなら今聞いたやん!」
「ふふっ、そうだね」
ごめんね、と謝り幸村は聞く。
「他の皆は知らないんだよね?」
「多分知らんと思う」
「じゃあ秘密にしとこうか」
楽しげに幸村が笑う。
「その方が面白そうだし」
「じゃあ秘密にしとくな!」
「うん、そうして。……でも、今までよくばれなかったよね」
そういえばと不思議そうな顔をする銀音に幸村は普段の様子を聞いた。
「え?確か…普通に目の前で着替えたりしてんねんけど」
「……普通過ぎて気付かないんだね、それ」
ああ納得といった顔になり幸村は苦笑する。
「でも気をつけた方が良いよ、女の子なんだからそういった態度は良くないから」
「何だかよう分からんけど、あんま人目に付かんように着替えればええってこと?」
「まあそんな感じかな。……そろそろ皆を呼ぼうか」
「おんっ、うち呼んでくるな!」
ガチャ、とドアを開けて銀音がレギュラー達のところに駆けて行く。
「羨ましい、な…」
そんな元気な姿を見て、幸村は自分の体と比べて悲しげに呟いた。
















「とりあえず銀音は大会に出すのは禁止ね」
レギュラー達が戻って来て早々、幸村は笑顔で言った。
「何でや幸村!」
「いやいや、つーかあの短時間でどれだけ仲良くなってんだよぃ」
名前呼びに変わっているのに気付いた丸井がツッコミを入れる。
それに何人かが内心頷いた。
「え?」
「……何でもないぜぃ」
幸村の後ろに修羅(話の内容がばれないようにする為)を見た丸井が発言を撤回した。
「何故なんだ精市」
「うーん…何て言えば良いかな。銀音の体はまだ完成してない」
「それはそうだ。まだ1年生だからな」
「そう、真田正解。聞いた話じゃ体に合ってないプレースタイルみたいだし。大会の試合は地区予選ならともかく、関東では氷帝、全国なら四天宝寺や獅子楽…強い学校がいる」
幸村の話に全員が黙って耳を向ける。
「一日一試合程とはいえ、連日全力で試合をし続けていたら銀音は下手をすればテニスが出来なくなる」
「「「「「「「!」」」」」」」
「それは避けなくてはいけないことだ」
幸村の言葉に全員が息を呑んだ。
「だから、銀音を試合に出さない。……これは部長命令だよ」
幸村は保険を掛けた。
銀音のテニスの腕を聞き、関西から来たと聞いたとき考えたこと。
関西の方では名前が知られているのではないのかと。
今日初めて会い、幸村は気付いた。
銀音が女の子だということに。
誰かが銀音が女子のテニスプレイヤーだと知っていたら。
銀音は男子テニス部に所属出来なくなる。
〈金ちゃん〉と戦いたいと言った、銀音の願いは叶わなくなると思った。
だから、幸村はそう言って周りに知られないようにした。
もし名前が知られていない選手だったとしたら、幸村は試合に出ても良いと許可を出すつもりだった。
「それもそうだな…」
「確かに、あのパワープレーは銀音君の体には酷な気もします」
納得したレギュラー達に幸村は内心謝った。
ただ一人、意味有り気にこちらを見ていた柳を除いて。














「精市、少し良いか?」
「柳。君が一人で此処に来たってことは…」
「ああ、核心はなかったが気付いていた」
「やっぱりそうか。……流石うちの参謀だね」
「ふっ…そうか?精市、お前の態度で気付いたのだがな」
柳は小さく笑み、ベッドの脇の椅子に座った。
「どれだけ調べても、遠山銀音というテニスプレイヤーは存在しなかった。…男子にはな」
「それから、違和感を?」
「ああ。女子の方のデータに手を付けたが、今日やっと見つけられた」
「今日?ねえ、柳。いつから女子のデータを?」
「銀音がテニス部に来たのが一週間前。それから二日間は男子のデータを、五日間女子のデータだ」
「珍しいね、柳が調べるのにそんなに掛かるなんて…」
驚きの声を上げた幸村に、柳が言う。
「3年ほど前、関西の一角で小さな地域交流の大会が開かれた。そのときの女子の部優勝者の名前が遠山銀音だった」
「もしかして、それだけ?」
「ああ、あいつはそれ以前もその後も公式戦には全く出ていない」
「ますます不思議だね。そんな子が立海に来るなんて…」
「もしかしたら、あいつは待っていたのかもしれないな」
「へえ、何を?」
柳の言葉に幸村は楽しげに問い掛ける。
「強者をだ」



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -