夕飯食べんのも一苦労やっ
 

「あー、疲れたなぁ」
ぐでー、と家の机に伏せながら銀音は言った。
今まで勉強という勉強を全くしたことがなかった銀音はすっかり精神的に疲れていた。
今まで通っていた小学校も、勉強より笑いを重視していた為、授業は殆どが笑いの授業だった。
ちゃんと普通の授業もあったが、基本的に話が逸れたりと授業らしい授業がなかった。
「夜ご飯ー……」
ふらりと立ち上がり、銀音は財布代わりのウサギのポシェットを首から下げた。
そのまま銀音はコンビニに歩き出した。
「お、銀音ちゃんじゃ」
「あー、仁王や」
コンビニに行く途中、銀音は仁王に会った。
「何処か行くんか」
「コンビニに夜ご飯買いに行くんよ」
「奇遇じゃな、俺もナリ」
ピヨ、と呟き仁王は銀音の隣に並んだ。
「仁王ー、うち疲れてもう歩けん」
ぐでーと仁王にしがみつく銀音。
「あと少しじゃから頑張りんしゃい」
ズリズリと銀音を引きずりながら仁王は歩く。
「……肉まんおごっちゃるぜよ」
「早う行こう仁王!」
急に元気になった銀音に仁王は苦笑する。
「んー……」
ひょいひょいとカゴにお握りやお弁当を入れていく銀音に、仁王は疑問に思ったのか聞いた。
「銀音ちゃん、そんなに食うんか」
「明日と明後日の分もやで!」
「ちょお待ちんしゃい」
レジに向かおうとする銀音を仁王が肩を掴んで引き止めた。
「他に料理は」
「ないで?」
ケロリとした顔で言う銀音に仁王はぺしりと頭を叩いた。
「銀音ちゃん、体に悪すぎじゃ」
「仁王やって買っとるやん!」
「俺は良いんじゃ」
飄々とした態度で言い、仁王は笑う。
「ずるいやろっ」
「銀音ちゃんはちっこいんじゃからちゃんとしたもん食わんと背が伸びんぜよ」
「! 背ぇ伸びひんの嫌や!」
ハッとした顔で銀音が言う。
「じゃから、ちゃんとしたもん食いんしゃい」
「気を付けるで!」
「まあ今日は仕方ないき。今日の分だけ買ってけばよか」
「おんっ」
お弁当一つとお握り二つを手に持ち、銀音は頷いた。
「ほら、肉まんおごっちゃるきに早くし」
「ちょお待ってーな!」
レジに買うものを出し、銀音はお金を払った。
その後すぐに仁王も自分の分のお握りと、肉まんを二つ買う。
「ほれ、熱いから気を付けんしゃい」
「おーきに、仁王!」
二人で肉まんを食べながら歩いて来た道を戻る。
「そういえば銀音ちゃん」
「んー………何や?」
口の中にある肉まんを飲み込み、銀音は答えた。
「銀音ちゃんの家って何処なんじゃ?」
「そこの大きなマンションや」
「ほー…今度行ってもええか?」
「構わんでー」
肉まんを食べ終わり、二人はそれぞれ家へと歩いて行った。














「あ、ジャッカルやー!」
「うおっ、危ねえからあんまり後ろから飛びつくなよ」
「えー」
「えー、じゃない」
「やってジャッカルが飛びつき易いんが悪いんや!」
「俺かよっ!」
「んだよぃ、ジャッカルの癖に」
「ブン太!?」
「お、銀音ーナイス飛びつき」
「言われた通りにやったで、丸井!」
「お前の差し金かよ!」
ぴょん、と丸井に飛びついた銀音。
丸井は丸井でそれに動じずガムを膨らませている。
「つかジャッカル」
「何だ?」
「腹減ったから菓子」
「…お前な。自分で持って来てたのは何処だよ」
「食ったに決まってんだろぃ」
きっぱりと答えた丸井にジャッカルが溜息をつきながら菓子を渡す。
「サンキュー」
菓子を受け取ると丸井はすたすたと立ち去った。
「ジャッカルジャッカル!」
「何だ遠山」
「これ、やるで!」
はい!と銀音はリュックに下げているウサギのポーチから飴を取り出して渡した。
「良いのか?」
「おんっ、やってジャッカルにあげよう思て来たんやもん!」
その言葉にジャッカルは思わず目元を抑えた。
「遠山……ありがとな」
「んー…あんな、ジャッカル」
「? どうした」
「遠山やのうて銀音って呼んで欲しいん」
「良いのか?名前で呼んで」
「おん、遠山呼ばれると何かお尻の辺りムズムズすんねん」
「そうか、ならこれからは銀音って呼ぶな」
「おーきに、ジャッカル!」
「構わねえぜ、それじゃあまた部活でな」
「おんっ!またなージャッカルーっ!」
パタパタと銀音は駆けて行った。
























「真田、蓮二、部活の方はどう?」
とある病院の一室。
優しげなアルト声が響いた。
「うむ、なかなか順調だ。新入部員も入ったしな」
「ああ、そうだな。それに…」
「それに?」
「新入部員の中に、強いやつがいた」
「へえ……その子、名前は?」興味を示したアルト声の主が尋ねる。
「遠山銀音、関西から来た期待のルーキーだ」
「遠山、銀音……」
「蓮二が試合をしたが点はあまり取れていないものの、なかなか良い試合をしていた」
「赤也とやったときは、赤目の状態の赤也と戦って食らいついていっていた」
「赤目状態の赤也と?それは凄いな。……ねえ、二人とも」
くすり、と笑いながら言葉を発する。
「何だ?」
「どうかしたか、」
「その遠山君、此処に今度連れて来てくれないかな?」
楽しげに、そしてはかなげに立海大附属の部長――幸村精市が言った。



前へ 次へ

 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -